ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■5319,不平等を歴史に学ぶ 〜②
【『21世紀の資本』トマ・ピケティ を私はこう読んだ 特集】
〜‘不平等を歴史に学ぶ’柴山桂太著(新潮45・2015年3月号)
* アメリカの格差拡大と、そもそも「“資本”とは何か」
「アメリカの千分の一世帯が、九割の世帯とほぼ同じ資産を持つ!」という。
情報化によるグローバル化は、その格差を更に大きくする。TPPで、世界の
GDP40%の環太平洋の経済圏が出来ることになった。関税の垣根が低く
なることは、競争の激化は、アメリカ並みの格差の拡大を意味する。
恐ろしいが、この流れは止めようがない。 〜その辺りから
≪ アメリカは、先進国でも別格に富の集中が進んでいる。
上位1%の所得が国民所得全体に占める割合(所謂“1%占有率”)は、
1986年には9%だったが、2012年には19%にまで増えている。小さい数字に
見えるかもしれないが、日本(2010年の段階で9.5%)やフランス(8%)
と比べるとこの数字は際立っている。資産格差のほうはもっと深刻だ。
『エコノミスト』誌の記事によると、アメリカの上位0.1%に当たる16万世帯
の資産総額は、下位90%の1億5000万世帯の資産総額にほぼ匹敵するという。
『21世紀の資本』は、所得や資産の上位層への集中を示すデータ
(“1%占有率”や“10%占有率”)を用いて、それがなぜ生じたのかを
歴史的・理論的に明らかにする本である。今までのところ、富の集中は
アメリカで顕著に表れているが、本書の議論に従うなら、これはアメリカ
社会に固有の現象ではない。先進国なら今後どこでも生じるだろうと予測。
今現在、日本ではアメリカほど極端な富の集中は起きていない。
“1%占有率”は1980年代(7%台)から現在(9.5%)までそれほど変わって
いない。だからこれまで日本の格差論争では、富裕層とそれ以外の不平等は
それほど重要視されていなかった。ところが、ピケティ氏らが整備した
『世界高所得データベース』を見ると、上位10%の占有率は日本でも上昇中で
あることがわかる。2010年には40%と、先進国でもアメリカ(48%)に次いで
大きい。因みに、日本の上位10%の平均所得は約900万円である。
日本ではアメリカのような大金持ちは少ないが、“小金持ち”の割合は
着実に増えている。“1%vs99%”の対立はまだ起きていないとしても、
“10%vs90%”の対立なら日本でも既に始まっているのだ。ピケティ氏は
複数のインタビューで、「日本も遠からず上位層への富の集中が激しくなる」
と警告している。では、なぜ富の集中が起きるのか。そこにはどんな
メカニズムがあるのか。 『21世紀の資本』の内容を確認しておこう。
格差や不平等の説明には、これまで様々な説が存在した。工業化の初期段階
で起きるとする説(クズネッツ仮説)はよく知られているが、それ以外にも
最近では、IT等の新技術の登場に適応した高技能労働者の賃金が上昇している
とする説(賃金プレミアム仮説)や、労働節約型の技術進歩が失業や低賃金を
生んでいるとする説(“機械との競争”仮説)、また金融の規制緩和等政治
と一部の利害団体の結託が不当な利益を生んでいるとする説(政治原因説)等、
様々である。だが、どの仮説も実証的な見地からの反論が多く、決定打に
欠けていた。他方、『21世紀の資本』でピケティ氏が提唱するのはもっと
シンプルな仮説だ。タイトルにもあるように、「“資本”が不平等の
歴史的な推移を説明する有力な変数となる」というものだからである。
「“資本”とは何か」というのは経済学における大問題だが、ピケティ氏は
これをあっさりと「人間以外の資産として所有できて、何らかの市場で取り
引きできるものの総和」と定義している。具体的には、工場等の物的設備・
不動産や住宅・株や債券等の金融資産がそれに当たる。日常的に用いられて
いる用語では、資産とほぼ同じ意味と考えて良い。資産を持つ者が持たない者
に比べて多くの収入を得るのは自明だ。労働による所得に加えて、利子や
配当等資産から発生する収益も得られるからである。・・・ ≫
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10月07日(水)
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