ID:54909
堀井On-Line
by horii86
[383157hit]

■5711,閑話小題 〜2016/11/03 5:55
どんな危険にあったかぜひ知りたいと貴兄はおっしゃいます。実は、先の手紙
ではそれを書こうとしていて、筆を置いてしまったのです。「思い出すのも
つらく、悲しみは深いけれど、とにかくやってみましょう」
 伯父が出発した後、私はずっと勉強をして過ごしました。そのために残った
のですから当然です。それから入浴と食事をし、そして短く途切れがちな睡眠
をとりました。それまでも、前ぶれのような地震が幾日も続いていましたが、
カンパニア地方では珍しいことではなかったので、さほど恐ろしくはありません
でした。しかし、その晩起こった地震はあまりに激しく、もはや揺れていると
いう程度ではなく、すべてがひっくり返ってしまったかのようでした。  
母が急いで私の部屋にやってきました。私の方ももう起き上がっていて、
母がまだ眠っていたら起こそうと考えていたところでした。私たちは中庭に
避難し、腰を下ろしました。そこは海と建物を隔てる格好の空間でした。
当時17歳だった私は、落ち着いていたというか、無分別だったというか、
ティトゥス=リウィウス(訳注:古代ローマの歴史家、『ローマ建国論の著者)
の本を持って来させ、いかにも暇を持て余しているかのようにその本を読み、
やりかけのレジュメを続けていました。そこへ伯父の友人がやって来ました。
伯父に会いにスペインから戻ったばかりだというその友人は、私が母と一緒に
座って本を読んでいるのを見て、私の無気力と不注意を責めました。
それでもなお私は、熱心に読書を続けようとしていたのです。 もう昼の第1時だ
というのに、光はなおもぼんやりとして、まるで病人のように弱々しいまま。
すでに建物には亀裂が入っていました。私たちは屋外にいたのですが、
建物が崩れ落ちたときのことを考えると、その狭い場所では安全とは言えません
でした。ついに私たちは町を出る決心をしました。私たちの後には茫然となった
群衆が続きました。人は突然激しい恐怖に襲われると、自分の決断より他人の
決断に従う方が賢明だと考えるらしいのです。   
(字数の関係でカット 2013年11月3日)

11月03日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る