ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■5376,武器としての決断思考 ー②
はあるものの本がまったくない現実を知った。ネパールの非識字率は七〇%。
子どもたちは勉強したくても教材がない。ウッドは自由に本を読めた少年時代
の自分を振り返って身につまされ、先生と子どもたちに今度来るときは本を
持ってきますね、と約束した。それが始まりだった。 仕事に見合う報酬は
もらっていたが、つねにプレッシャーとストレスがあふれていた。
「墓に入ったら好ぎなだけ眠れるから」と、自分に言い聞かせていた気もする。
でも七年間ずっと、ある疑問を感じてもいた。これが人生のすべてなのだろう
かー働けぽ働くほど稼げるということだけが。僕は企業戦士の特殊部隊として
生ぎる道を選んだ。休暇はとりたいやつがとればいい。本物の戦士は週末も
働き、航空会社のマイレージを何万マイルも貯めて、拡大しつづける
マイクロソフト大国で自分のミニ王国を築く。忙しいと文句を言うのは、
会社の将来を考えていない証拠。『マイクロソフトでは出会えなかった天職』
ジョン・ウッド・ランダム八ウスウッドは友人たちに本集めに協力してもらい
山のようなメールを送った。徐々に本気になっていった。
やりがいを覚えるようにもなった。一年後、四四〇キロの重量の本を持って、
ウッドは父とともにネパールに帰ってきた。学校では歓迎式典が準備され、
感謝の言葉と笑顔に迎えられた。カトマンズの僧院で自問する。
鐘が鳴り、数秒間の沈黙が流れ、そして三〇人の修道僧が、のどを低く
鳴らしてお経を唱えはじめた。暗がりのなかで数百本のろうそくが揺れている。
僕の心のなかは、平穏どころか大混乱していた。二つの強い力が正反対の方向
に引ぱり合っていた。マイクロソフトは僕を昇進させ、二日後にはいつもの
生活に戻らなけれぽならない。でも反対側では、僕にとっての優先順位が急激
に変わりつつあった。数百万人の子供が本を読めずにいるというのに、台湾で
来月ウィンドウズが何本売れるかということが、本当に重要なのだろうか。
ネパールの子供一10人中7人は生涯読み書きができないというのに、香港の電子
商取引ビジネスで先手をとろうとか、中国の海賊版対策に力を入れようとか、
そこでウヅドはマイクロソフトを辞めて、この仕事に従事する決意。 
ふつうではちょえられない決断である。・・・これは価値観の中心に置かれた
ものの書き換えである。人によって価値観の中心に置かれたものはさまざま。
その周縁にもいろいろな欲望が分散している。しかしウッドの価値観の中心が
「成功」から「奉仕」へ入れ替わったのだ。かつて不動の神として中心に鎮座
していたものは周縁に吹き飛ぽされたのである。
(字数制限のためカット2011年12月3日)

12月03日(木)
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