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On the Production
by 井口健二
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■ヤギと男と男と壁と、終着駅、老人と海、スープ・オペラ、オカンの嫁入り+製作ニュース
びた洋館で洋裁店を営む母方の叔母に育てられてきたが、あ
る日、その叔母が結婚して家を出ていってしまう。
こうして孤独を味わいながらの1人暮らしとなった主人公の
許に、庭に入った猫を追ってきたと称する初老の男性と、親
友の女性編集者から紹介された若い男性(編集部のアルバイ
ト)が居候することになるが…
こんな主人公の物語に、勤務先の図書館の館長や占い好きの
大学教授、お隣の老婦人や商店街の肉屋の店主、さらに親友
の女性編集者と彼女が担当する奇癖を持つ男性作家。そして
主人公の通勤路の脇にある廃園した遊園地などが彩りを添え
て行く。
特に、この草に埋もれたメリーゴーランドや観覧車の点在す
る遊園地の風景が素敵で、主人公はその前を通り掛かる度に
「回れ」と掛け声を掛け続けているのだが…
主人公の職場での姿などは現代を感じさせる一方で、職場を
離れてからの生活にはどこか現実離れしたメルヘンな雰囲気
が漂う。それが遊園地の風景に添えられた楽団の演奏などに
よって倍加される。
そんな敢えて現実味を取り除いた映像が、映画の全体を心地
よいものにしてくれている。
出演は坂井真紀、西島隆弘、藤竜也。他に加賀まりこ、萩原
聖人、鈴木砂羽、田山涼成、余喜美子、平泉成、嶋田久作、
塩見三省、入江若葉らが脇を固めている。
また、映画の主役の1つとも言える主人公たちが住む家は、
東京都新宿区中井で築90年に近いという実際の家で撮影。も
う1つの廃園した遊園地は、1979年に開園し、2000年に閉園
した宮城県大崎市の「化女沼レジャーランド」という場所で
撮影されているそうだ。
さらに、そこで演奏される楽団には、日本バンドネオン界の
第1人者といわれる京谷弘司氏を中心にクラシック系のメム
バーが揃えられているとのこと。
また題名にもなっているスープなどの劇中の料理には六本木
に店を持つオーナーシェフが参加。食器やテーブルウェアな
どにも、映画のために製作された特別のものが使われている
とのことで、そんな端々にも気の使われた作品のようだ。
監督は、2005年4月紹介『樹の海』などの瀧本智行。以前の
作品と同様、登場人物の心情が丁寧に描かれた心の温まる作
品だった。
『オカンの嫁入り』
2008年第3回日本ラブストーリー大賞でニフティ/ココログ
賞を受賞した咲乃月音による原作から、2006年11月紹介『酒
井家のしあわせ』の呉美保が脚色監督した作品。前作以降は
TVドキュメンタリーを撮っていた呉監督の劇映画第2作と
なる。
物語は題名の通り、母1人娘1人の母子家庭の母親が、深夜
3時の帰宅で息子ほどの歳のしかも頭髪は金髪リーゼントと
いう若者を連れてきて結婚を宣言。それに戸惑った娘は家を
飛び出さざるを得なくなって…というお話。
実は上の作品と同じ日に試写を観ておやおやという感じにな
った。もちろん具体的な内容は異なるが、物語の発端はかな
り似ている。ただし2人の年齢が上の作品に比べてかなり若
く、その点で上の作品がメルヘンなのに対して本作では多少
生々しい感じのするものだ。
でもまあ、その生々しさが本作の眼目でもあろうし、その点
で呉監督は、このちょっと変わったシチュエーションの物語
を、監督第1作の時と同様に上手く描き込んでいる。特に若
い女性の置かれた状況などは共感を呼ぶところも多そうだ。
ただし男性の自分としては、ここまで生々しいと多少戸惑っ
てしまうところも生じるもので、僕自身の好みで言えば上の
メルヘン作品の方が好きだが、女性の評価は違うかも知れな
いと思える作品だった。
出演は宮崎あおい、大竹しのぶ。他に桐谷健太、絵沢萠子、
國村隼、林泰文、斎藤洋介、春やすこ、たくませいこ、友近
らが脇を固めている。
関西のウナギの寝床のような貸家の様子やそこに集まる人々
の生活などには、東京に住んでいると忘れてしまったような
日本の風景が展開されている。そんなところも描きたかった
のだろうと思わせた。
ただし、主人公の負った深いトラウマが、あれだけのことで
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06月13日(日)
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