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On the Production
by 井口健二
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■ザ・ウォッチャーズ、ぼくが生きてるふたつの世界、心平、箱男
デッキを挟んだ2つの車両で窓越しに手話で会話するシーン
が、何となく再現されている感じなのは嬉しかった。
まあこのテーマでは誰しもが思い付くシーンなのかもしれな
いが、テーマを際立たせる意味では最高の演出と言えるもの
だろう。そんなシーンを挟みながら、作品ではある種の現代
の縮図を描き切ったとも言える。
それは差別の問題に関して、頭では理解していても何気なく
発してしまう言動など、自分は健常者の身として気付かず行
ってしまったことが取り返しがつかないものであったりもす
る訳で、そんな現実も突き付けられる作品だった。
その一方で手話における方言など、今まで日本語と英語の手
話が異なることは知っていたが、日本国内でもそんな事情が
あるとは考えていなかった。そんな知らなかったことを教え
て貰える作品でもあった。
そして映画全体では普遍的な家族の在り方が示される。そん
な感じもする作品だ。
公開は9月13日から宮城県で先行上映の後、東京地区は9月
20日より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて全国順次
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。
『心平、』
1986年生まれ日本映画学校卒業。石井岳龍監督、廣木隆一監
督、青山真治監督らの助監督を務め、2022年に『ダラダラ』
という作品で商業映画デビューした山城達郎監督の第2作。
物語の背景は2014年の福島県。原発事故による避難と帰宅規
制が続く中で人々は生き続けている。そして主人公は軽度の
知的障害を持つ男性。元々は父親と農業をしていたが事故の
影響で続けられず、父親は農地を手放したようだ。
そんな主人公には様々な仕事を斡旋されるが、どれも長くは
続かない。それどころか紹介された仕事の面接に行かなかっ
たりもする。それでも父親は息子に小遣いを与えてそれ以上
の期待は持っていないようだ。
そして息子はその小遣いで、手作り傘を買い集めたりしてい
たが…。そんな主人公の行動がある問題を引き起こす。
出演は、2012年3月紹介『サイタマノラッパー(SR3)/
ロードサイドの逃亡者』が初主演だったという2024年1月紹
介『湖の女たち』などの奥野瑛太。他に監督の前作にも出演
の芦原優愛、2018年5月13日付題名紹介『菊とギロチン』な
どの下元史朗。
さらに河屋秀俊、小林リュージュ、川瀬陽太、影山祐子らが
脇を固めている。
脚本は、2022年8月紹介『さすらいのボンボンキャンディ』
などの竹浪春花。本作は2014年に執筆されて山城監督が気に
入り、長年温存されていた企画が日本芸術振興会の若手映画
監督支援に選出されて実現したものだそうだ。
前の作品に続いて身体と精神の違いはあれど障碍者と社会と
の繋がりを描いた作品だが、実は同じ日に続けて試写を観て
その違いを痛感してしまった。それは2つのテーマの繋がり
が本作では何となくしっくり来なかったのだ。
実際に前の作品は障害者と差別社会という誰が観ても理解の
できる2つのテーマだったが、本作の障碍者と福島の問題は
部外者には容易にその繋がりが理解できるものではない。こ
のため観ていて違和感が拭えなかった。
それは知的障害も重要なテーマだし、原発事故の被害も重要
なテーマだが、作中でその2つを纏める意義が見出せない。
そのため見る側の意識も揺らいでしまう。ただそこに主人公
の活動があって、そこから何か生まれそうな気もするが…。
残念ながら本作はそこまで描き切れていなかった。
若手監督の映画製作で本作にも関わる公的な支援は、公開期
限が定められるなど特に時間的な制約が多いと聞くが、もう
少し時間を掛けてテーマを練り込んで欲しかったとは思って
しまったものだ。
公開は8月17日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写
を観て投稿するものです。
『箱男』
2018年6月紹介『パンク侍、斬られて候』などの石井岳龍監
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06月16日(日)
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