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On the Production
by 井口健二
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■ピアノ 2 PIANOS 4 HANDS、かづゑ的、青春ジャック
誇りを持っている、そんな凛々しさも感じたものだ。そして
その人生が 119分の映画の中で紐解かれて行く。それは差別
というだけでは済まされない壮絶なものだった。
実は僕自身の娘が東京都東村山市にある多磨全生園に勤務し
ていて、以前からこの病の患者が受けてきた差別に関しては
其れなりの関心を持っていたが、そんな目で見ていてもこの
作品が実に丁寧に描かれていることを気付かされた。
それはかづゑさんの家族写真やアーカイヴ映像の提示だけで
なく、かづゑさんを「らい患者」であることを超えて1人の
女性として観続けているからであって、その監督の寄り添う
気持ちが作品を素晴らしいものにしているとも感じた。
それにしてもこの作品では、中で語られる言葉の一つ一つに
強く且つ重大な意味を持つようにも感じられた。それは敢え
ていう差別行政の問題であり、その一方で個人の中に巣くう
差別意識の問題でもある。
そんな差別意識がSNSなどでの誹謗中傷を生み出す、そん
な時代に一石を投じるような作品にも思えた。らい病を超え
た大きな問題がこの作品には描かれている。そんな評価も出
来る作品だ。
公開は2024年3月2日より、東京地区はポレポレ東中野他に
て全国順次ロードショウとなる。
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』
2018年7月29日付で題名紹介した白石和彌監督作品の続編。
前作の1970年代から時代は流れ、ヴィデオの普及が始まった
1980年代に若松孝二監督が名古屋に開館したミニシアター、
シネマスコーレの黎明期が描かれる。
物語の始まりは1982年。主人公の木全純治は故郷の名古屋で
流行り始めた家庭用ヴィデオカメラの営業に勤しんでいた。
そんな木全に1人の男性が声を掛ける。その主は若松孝二、
若松は名古屋で映画館を開館しようとしていた。
実は木全は、東京の文芸坐で上映作品の選定などを行ってい
たが結婚を機に職を辞して名古屋に戻っていた人物だった。
そんな人物を若松は口説き落とし、彼の妻の理解もあって開
館する映画館の支配人に抜擢する。
それはヴィデオの普及で、世間的には映画館の行く末に暗雲
が立ち込めていると思われている時代だったが…。そんな映
画館シネマスコーレには若い世代の映画人が集まってくる。
その中に18歳の井上淳一もいた。
企画・脚本・監督は前作の脚本を手掛けた井上淳一。企画と
プロヂューサーにはシネマスコーレ支配人の木全純治も名を
連ねている。
実は井上には前作の続編を要望する声が多く届いていたとい
う。そんな中でシネマスコーレのドキュメンタリー映画が公
開され、そのパンフレットに寄稿した井上は本作の企画を口
走り、それに木全支配人が呼応した。
そんなことでスタートした企画だが、いざ脚本を書き始める
とドラマが足りない。そこでふとト書きに「井上淳一(18)が
歩いてくる」と書いた時には、冷や汗が出たと本人がプレス
資料に書いているものだ。
出演は若松孝二役に前作に引き続いての井浦新、木全純治役
には東出昌大、そして井上淳一役に2018年11月25日付題名紹
介『半世界』で主人公の息子役を演じていた杉田雷麟、それ
に芋生悠。
他にコムアイ、田中俊介、向里祐香、成田浬、吉岡睦雄、大
西信満、タモト清嵐、山崎竜太郎、田中偉登、高橋雄祐、碧
木愛莉、笹岡ひなり、有森也実、田中要次、田口トモロヲ、
門脇麦、田中麗奈、竹中直人らが脇を固めている。
結果的に物語は若い映画人の成長を描くことになっており、
それは前作の門脇麦の役柄とも重なる。しかし彼らを取り巻
く環境の違いが時代を反映しており、それは両作を見比べる
と面白さにもなる。
そんな何時の時代にもいて、現代にも通じる映画ファンの姿
を描いた作品とも言えそうだ。
公開は2024年3月15日より、東京地区はテアトル新宿他にて
全国順次ロードショウとなる。
12月10日(日)
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