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On the Production
by 井口健二
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■第28回東京国際映画祭<コンペティション部門>
故郷に帰ってくる。そこには将来を誓っていたがある事情で
別れざるを得なかった元恋人の姿もあった。彼女の姿は卒業
アルバムからも消されるなど、相当の理由があったようで、
そこには政治的な問題も絡んでいるようなのだが、映画を観
ていてその辺の事情がほとんど理解できなかった。製作国は
タイで、背景には8年間に2度のクーデターがあったという
国情が絡むようなのだが…。
『フル・コンタクト』“Full Contact”
アメリカ・ネヴァダ州の砂漠でドローンを使った中東攻撃に
従事する米軍人を描いた前半と、ヨーロッパでアラブ人との
格闘技を闘う後半。その間にバスケットボールとカッカーが
絡む幕間劇を挟むという構成の物語。言いたいことは判らな
いでもないが、ドローン攻撃の非人間性を訴えるということ
では、先に公開されたイーサン・ホーク主演の『ドローン・
オブ・ウォー』の方が優れていたようにも思える。これでは
後半の展開も活きていなかった。
『ニーゼ』“Nise - O Coração da Loucura”
ロボトミー治療が主流の時代のブラジルの精神病院で、作業
療法を実践して数多くの芸術家を誕生させた女性精神科医を
描いた実話に基づく作品。本作では上映後のQ&Aにも参加
したが、それによると映画に登場する絵画や塑像は全て実際
に患者たちの手で作られたものだそうで、本作ではその素晴
らしさも堪能できる。また女医の生涯における業績はこれだ
けではないとのことで、さらに続編の計画もあるとのこと。
それも待ちたい作品だ。
『神様の思し召し』“Se Dio Vuole”
優秀で厳格な外科医の息子が神父の道を目指す。しかも息子
が師事する神父が少し怪しげで…、という科学と神学の対立
を真っ向から描いた作品。テーマ性も含めて見事なドラマだ
った。なおこの上映でもQ&Aに参加したが、イタリアでは
教会派、反教会派の双方から賛否があったそうだ。また作中
の息子の部屋にゴジラのフィギュアが置いて有り、ファン的
にはそれが気になって質問してみたが、特に意味はなかった
ようだ。でもまあそんなことも嬉しくなった作品だ。
『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』
“Un Monstruo de mil cabezas”
タイトルは顧客の要望をたらい回しする保険会社を揶揄った
もので、大半の観客にはかなりの共感を呼ぶと思える作品。
ただ作品の展開がどちらかというとアクション映画的な乗り
で、もっと深く突っ込んで欲しい部分が何となくはぐらかさ
れている感じがした。まあ映画製作も保険に頼っている面は
あるから、保険の種類は異なるとはいえ気にしたのかな。そ
んな皮肉な見方もしてしまう程度の作品だった。
『スリー・オブ・アス』“Nous trois ou rien”
中東クルド民族の問題を描いた実話に基づくとされる作品。
フランスで人気のコメディアン=ケイロンが自分の父親を描
いた作品で、中東紛争の中に生きる困難さを克明に描いてい
る。ただ、映画の前半の舞台が中東なのに登場人物の全員が
フランス語を話している違和感は、フランス生まれの監督が
自ら主演もしているから仕方ないのかな。でもそれが国際映
画祭という場には何となくそぐわない感じもした。僕以外に
も気にした人は意外と多くいたようだ。
『ガールズ・ハウス』“Khaneye Dokhtar”
イスラム社会に生きる若者の悲劇を描いた少しミステリーの
要素も含む作品。女子大生の主人公が結婚式の前日に死んだ
学友の謎を追う内に、イスラム社会の恐ろしい現実に突き当
たって行く。映画の前半は不思議なムードも漂うミステリー
で中々と思っていたが、後半で提示される現実に震撼とさせ
られた。勿論この現実を訴えたいと思う監督の気持ちは大い
に理解するが、前半の雰囲気からの落差の大きさが受け止め
切れない。その衝撃が狙いなのも理解は出来るのだが…。
* *
今年のコンペティション部門には16本がエントリーされ、
その内から上記の14本を観ることができた。残る内の『カラ
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11月01日(日)
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