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On the Production
by 井口健二
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■ヤギと男と男と壁と、終着駅、老人と海、スープ・オペラ、オカンの嫁入り+製作ニュース
いを繰り広げる作家夫妻の姿だった。
やがてその夫妻の関係に決定的な出来事が訪れ、作家は82歳
にして家出を実行する。そしてそれは作家にとって生涯最後
の旅となる。
トルストイの妻は、その作家の死去の際の経緯などから悪妻
との評判が高いようだ。しかしこの物語では作家夫妻の真実
の姿が描かれている。それは家族を愛し夫を愛する妻の姿で
あり、そこには悪妻と呼ばれるような事実はない。
なお本作の物語は、ジェイ・パリーニという作家の小説に基
づいているが、残されている当時の文献などから類推して、
真実はこのようなことと解釈できるようだ。そんな夫婦の愛
憎劇が描かれる。
出演は、本作でオスカーとゴールデングローブ両賞の主演女
優賞候補になったヘレン・ミレンと同じく助演男優賞候補に
なったクリストファー・プラマーが作家夫妻を演じ、他に、
ジェームズ・マカヴォイ、ポール・ジアマッティらが脇を固
めている。
なお台詞は全て英語になっているが、この演技陣を観ればそ
れで充分だろう。作中で複数の言語が使われる訳でもなく、
敢えて言語に拘わる必要のない作品だ。
脚本と監督は、2004年2月紹介『卒業の朝』などのマイクル
・ホフマン。比較的寡作な監督だと思うが、本作でもじっく
りと構えて見事な演出を見せてくれる。因に撮影は、ヤース
ナヤ・ポリャーナのトルストイの邸宅などでも行われている
ようだ。
『老人と海』
沖縄県与那国島在住の老漁師が、サバニと呼ばれる小型船を
使った漁で、100kgを超えるカジキを追う姿を追ったドキュ
メンタリー。1988年に撮影を開始、1990年に完成公開された
作品の再公開。
題名はアーネスト・ヘミングウェーの名作と同じだが、この
映画の製作者は、名作の舞台のハバナ港の緯度が与那国島と
ほぼ同じで海流なども似ていることに着目、その島での老漁
師の姿を追ったドキュメンタリーを企画したのだそうだ。
そして監督には、名作の作者と同じアメリカ人で、先に広島
が題材のドキュメンタリー作品『劫火』でアカデミー賞候補
になっていたジャン・ユンカーマンを招請、当時すでに唯一
のサバニ漁の継承者だった糸数繁氏を追ってアジア版『老人
と海』が撮影された。
しかし、撮影の開始された1988年は14年ぶりとも言われる不
漁でカジキは不発。漁の撮影は2年間に及び、さらに島での
祭りの様子や編集から生じた追加撮影などで、結局完成まで
に製作者が企画を立ててから5年が掛かったとのことだ。
作品の中では、最後に171キロの大物を仕留めるまでの正に
伝統の漁法を守る老漁師の姿だけでなく、ハーリー祭や金比
羅祭などの島の文化も紹介され、また老漁師の妻との生活の
様子なども納められている。
因に漁の撮影は、サバニ船にカメラマンが同乗しての撮影と
同時に、大型船を並走させてその船上からの撮影。さらに海
上で船を繋いでカメラマンを移乗させてからの全景撮影など
で行われており、見事なドキュメンタリーが完成された。
音楽は、フォークグループ六文銭の小室等が担当。またその
演奏にはジャズミュージシャンの坂田明、佐藤充彦らが参加
しているのも聞きものだ。
なお、完成された映画の上映会は最初に与那国島で行われ、
次いで沖縄本島でも行われて老漁師は一躍ヒーローになった
そうだ。しかし、東京での上映が行われる1カ月前の1990年
8月、老漁師は漁に出たまま帰らぬ人となった。
恐らくは大魚によって海に引き摺り込まれたのだろうと言わ
れているが、彼の死によってサバニ漁を継承する人もいなく
なったということで、この作品は正にその伝統を記録した貴
重な作品とも言えるのだ。
本作は、7月31日(土)より銀座シネパトス、テアトル新宿、
キネカ大森ほか全国順次公開される。
『スープ・オペラ』
阿川佐和子の原作小説によるちょっとファンタスティックな
ところもある映画化作品。
主人公は、大学の図書館に勤めるちょっと婚期に遅れたかな
と思わせる女性。彼女は両親を幼くして亡くし、その後は古
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06月13日(日)
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