ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『しあわせな選択』
『しあわせな選択』@kino cinema 新宿 シアター 1
なんて話だよ…こんな気が沈むコメディあるかよ……(面白かったの意)そんで映像がもういちいち美しすぎる。なんだあの冒頭の空の色。あと音楽最高 『しあわせな選択』
[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 12, 2026 at 1:18
ほんとこの監督、奇妙。いつもなんだ? 何を見せられている? と動揺しつつ目が離せず最後迄観てしまう。観終わっても、なんだったんだ……と混乱しつつ、でもあたたかい余韻が胸に残ったままふわふわ家路に就く。『JSA』が異色というかいちばん“普通”らしいのだが、未見のままなんですよね……やっぱ初見はスクリーンで観たいのでなあ。
原題『어쩔수가없다(仕方がない)』、英題『No Other Choice』。2025年、パク・チャヌク監督作品。原題は台詞で何度か語られますし、英題はリストラに来た外資の連中の台詞ですね。ここに「しあわせ」を入れてくるかと邦題のセンスにある意味唸りました。25年勤めた製紙会社をリストラにより解雇され、再就職もうまくいかない。よし、ライバルを減らしていこう! 主人公は自分と同じポジションの就職を目指している人物をひとりひとり消していくことに……。
手札の出し順が巧い。娘の挙動、何故コーラを飲むのか、温室。さりげなく「?」を示し、その後「!」を出してくる。盆栽の針金かけの技術があんなところで活きるとは……って感心している場合じゃない、その技術何に使ってんだよ! てかそこ迄の技術持ってるんなら製紙業界の再就職に固執することもないじゃないかよ! ガーデニングの講師とかじゃダメなのかヨ! と茶化したくもなるが、それらは笑いを通り越して哀切にすら映る。必死はいつも喜劇になりますね。それは妻にカフェ開業を勧められているのに「俺には紙しかない」と呑んだくれている主人公のライバルも同じこと。あれ程オーディオに凝る音楽好きなのに……彼は主人公の鏡のようでもある。ふたりともリストラされる前から断酒が必要だったくらいなのに、環境を変えられない。
そんな悲喜劇を彩る映像と音楽。鮮やかな光と色彩はチャヌク作品の真骨頂ですが、自然の美しさをああも際立たせられるとどんなに笑えるシーンでも涙が出てしまう。冒頭のバーベキューの背景にある空の色からして凄まじいものだったし(幸せな家族の風景が空の色ひとつで不穏を孕む)、そんでなんだよあの林の、紅葉の色! 覗き見してるとこなのに! 蛇と取っ組み合いしてるのに! 主人公の妻のニットとブラの線、浮き出る乳首の陰影も笑いを通り越して瞠目しましたよね。神は細部に宿る。チョー・ヨンピルの歌のとこもリスニング出来るひとはかなり笑えたんじゃないかと思います(字幕は出てたけど、あのシーン映像ともに情報量が多すぎて追いきれなかったよ・笑)。
登場人物の表情の捉え方も、必死な形相(にならない)の瞬間やちょっとした視線の動きを観客が見逃さないよう誘導している。こちらも神は細部に以下同文。演者も巧い。いや、そこで惚れなおすんかい、そこで信頼を築くんかい、と笑い乍らも気持ちはどんどん沈む。ニンゲンって本当に単純で複雑。家族のハグはまるでスクラムのよう。いや、あれはモールではないか。何故かラグビーを連想する。
何故そっちへ行く? という方向へとどんどん舵を切る主人公とその家族。それは家族の絆とか生活を守るためとか、そんな単純なものでは括れない覚悟がある。彼らは家族を共同体と決めている。血縁は関係ないということも示されている。おおきくて賢い犬は眩いばかりの幸福の象徴。2匹ともいい仕事してた! てかあの犬の様子も、家族が慈しみ育てたのだなあとわかるひとつの要素になっている。いい家族なんだよね。その家族は大きな罪を負った。妻が、息子が、揃って家長と運命を共にしようとしていくなか、娘だけがまっすぐな瞳でチェロを弾く。犬が娘のチェロを静かに聴いている、なんて美しくも哀しいシーンだったことか。彼らはまた離れ離れになってしまうのだろうか、それとも。
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03月11日(水)
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