ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647599hit]

■『私を探さないで』
M&OPlaysプロデュース『私を探さないで』@本多劇場

『シブヤから遠く離れて』から21年、遂に?勝地涼が岩松了作品で主演を…🎉 いいたかった言葉、いえなかった言葉を悉く成仏させる岩松術。緊張の続く会話で2時間がピンと保つ。感嘆のため息。『私を探さないで』

[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Nov 1, 2025 at 22:19
このあと調べてみたら、勝地さんは2021年に『いのち知らず』で岩松作品の主演を務めておりました。これ見逃してるんだけど仲野大賀主演だと思ってた。勝地さんの事務所のHP見たらわざわざ「主演」て書いてあった。ご、ごめ……失礼しました!

結婚の報告のため、故郷の離島へ一時帰省した主人公。「17歳の男の子」だった彼は、再会した高校時代の同級生、担任教師との会話を通じ、失踪した女子生徒のことを思い出す。かつて彼女と主人公はのっぴきならない関係にあり、同様に主人公と担任教師との関係も微妙なものだった。教師は作家へと転身し、島で、学校で起こった出来事をモチーフにした小説はベストセラーとなる。そのことが地元を華やがせているようだが、かつての生徒たちは自分たちのことが小説に書かれていることを手放しで喜んではいない。

今回はインスパイア元としてスティーヴン・ミルハウザーの短編小説「イレーン・コールマンの失踪」が挙げられている(未読。読んでみたい!)。とはいうものの、不穏な台詞のやりとりは岩松節としかいいようがないくらいの精錬ぶり。なんでこんなにイライラするのに引き込まれてしまうのだろう。このひとの書く会話に魅せられている。取り憑かれている、といった方が合っているかもしれない。あ゛ーームカつくーーー! と思っていると「ポケットのなかにいるのは私でしょう?」なんて宝石のような言葉をブッ込んでくる。憎しみすら覚える(笑顔で)。

具象が少ない舞台(美術:愛甲悦子)、というのは岩松作品には珍しい。階段はなく、堤防がある。しかしそれは具象ではなく、見えない「向こう側」を観客に意識させる。向こう側にある海、向こう側にいる人物、向こう側にある生活。岩松作品の象徴でもある水はその最大値である海になり、それも姿を現さない。失踪した女子生徒は鮮やかなブルーの小物を身につけている(衣裳:伊賀大介)。服装が変わっても、必ず青がそこにある。ミステリアスでもあり、清潔でもあり、海のような昏さもある青。女子生徒を演じる河合優実によく似合う。

岩松さんが演じる、双子とはいわないがそっくりな兄弟の違いを衣裳ひとつで見せていたのも見事だった。見た目だけでなく、そのひととなりも感じとれてしまうのだ。小綺麗で統一感のある服を着た兄、トレーニングウェアの上はadidas、下はPUMAという、いかにも頓着がない弟。そのひととなりが透けて見えるようだった。小泉今日子演じる教師の、ドレープの効いたスーツも素敵。

被害者でいたい人物、加害者の方がマシだと思う人物、被害者と加害者を生んでしまったかもしれない人物。失踪した女子生徒への追憶を辿っても答えは出ない。正解もない。しかし目が、耳が舞台に釘付けになり続ける2時間。ずっとモヤモヤしている裏で、心はずっと高揚している。胸踊るような舞台だった。

岩松さんと蜷川幸雄の初タッグである『シブヤから遠く離れて』は、舞台というものの刹那と永遠を見せてくれた。ふたりはその後何作もタッグを組んだ。本人たちにとっても大きな出会いだったのだろう、蜷川さんの没後も岩松さんはゴールド/ネクストシアターの面倒を見てくれた。その結晶ともいえる『薄い桃色のかたまり』、『雨花のけもの』は、忘れ難い美しい作品となった。舞台なので、その痕跡は関わった/目撃した者の心のなかにしかない。


[5]続きを読む

11月01日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る