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by kai
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■『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』@KAAT 神奈川芸術劇場 ホール

初日でした〜 不安な社会を逞しく生き抜きたいけど怖くて仕方がないひとが、死ぬ前に、いや死んだあとにも「いや〜ほんっと大変だったよね、色々あったよねえ」って振り返りたくなるお芝居でした。これ即ち人生。 『最後のドン・キホーテ』

[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Sep 15, 2025 at 1:28
この日しか行けないのでとったんだけど、ケラさんの芝居の初日観るの初めてだわ確か。長塚くんが入口で挨拶してたりして、ロビーや客席に独特の緊張感と祝祭感がある。SNSで演劇関係者が初日に「おめでとうございます」と声を掛け合ったりしているのを見るのも好き。やっぱり特別な日ですよね。それにしてもいい初日だったな……客席はこの作品を初めて観るひとばかりで埋まっていて、物語がどんな結末を迎えるか知らない。謎が謎を呼ぶ一幕目、「この話はどこへどう転がるの?」「これからどうなるの?」という幕間のざわめき。冒険が混迷を極める二幕目は笑いの連続、そして涙。カーテンコールにはブラボーの声も飛びました。

ミゲル・デ・セルバンテス『ドン・キホーテの冒険』のリメイク、という打ち出し。原作は昔児童書で読んだくらい、そして殆ど忘れている。あとテリー・ギリアムの映画からの知識しかない。という訳でケラリーノ・サンドロヴィッチの作品として観た。KERAさんの描く物語としか形容しようがない世界がそこにあった。

騎士道物語の読み過ぎで自分を遍歴の騎士(ドン・キホーテ)と思い込んでしまった人物、を演じるうちに自分のことをドン・キホーテと思い込んでしまった老人。どこかで起こっている戦争、あっけなく殺される市民、死体から金目のものをくすねる子どもたち。そんな世界を生き抜いた資本家が、死の間際に見る幻の冒険。遍歴の騎士となった彼は今際の際に何を見るのか。暴虐の限りを尽くした(らしい)老人と、その影響を真っ向から被った(らしい)家族の憎しみと赦しは。

KERAさんが描く世界において、死ぬことは安息と福音だ。ご本人が書いていたように、今作は『カラフルメリィでオハヨ』に通じるものがあった。人生とはこんなにも滑稽で、辛く苦しいもの。でも、「人間の死亡率100%」なのだ、誰にとっても。ぼやけていく記憶、動かなくなっていく身体の痛みが、忘却とともに安らぎを迎える。散々振り回された周囲の人間は、死へと旅立つ老人を穏やかに看取る。彼の身体から出てきた宝石の鑑定結果がガラス玉であっても、だ。

天使のような“姫”が、現実をどんな思いで生きているか。脚の悪い果物屋と、その父の間にはどんなやりとりがあったのか。ちょっとした会話のふりをして少しずつ明らかになっていくさまざまな人生。その原因や理由を相手が知ることなく、二度と会わないふたりがいる。命を落とすひとがいる。それでも人々は笑い、観客も笑う。虚構に呑み込まれる恐怖と愉悦。

抜群のリズム感で台詞が交わされる。笑いとシリアスのスウィッチングが絶妙、これもリズム感の賜物だ。大倉孝二の魅力が満載。何をやっても面白いのに、臨終の場では涙を誘う。たまらん。KERAさん演出の大倉くん大好き。咲妃みゆは歌が素晴らしい(ていうかあの歌詞をあの美しい声で唄うのがもうおかしくて)のは当然として、コメディエンヌとしての才気に驚かされる。次は『クワイエット・ルームにようこそ』ミュージカル(!)に出演するとのこと。KERAさんの次は松尾さんか……す、すごいな。現実世界の苦難を一手に引き受ける(それだけにあの最後、胸に迫る)サンチョ・パンサ安井順平も、ジャンバラヤを食べられない(笑)菅原永二もいい味出してました。

そうそう、演奏陣も最高だった! さまよえる楽隊は、ステージ上手側のブースだけでなく作中の世界にも現れる。祝祭の空間を鮮やかに彩り、死者を送り、傷付いた人々とともに行進する。二幕とも導入が関根真里によるドラムソロ、これにはシビれた。当日パンフレットにミュージシャンのクレジットも入れてほしかった! 公式サイト(後述)には全員の名前が出ています。ギターがダブルキャストで、初日は伏見蛍さんでした。


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09月14日(日)
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