ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647646hit]
■『大統領暗殺裁判 16日間の真実』
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』@ヒューマントラスト有楽町 シアター1
結果は判っているので、弁護団が打開策を見出し喜ぶ度に胸が潰れる思い。あのひとに面と向かってこういえるひとがいたらよかったのに、という場面が描かれ、ここにも胸が潰れる思い。どれも当時は成し得なかったこと、そして今忘れ去られないように映画に残せたこと 『大統領暗殺裁判 真実の16日間』
[image or embed]— kai (@flower-lens.bsky.social) Aug 23, 2025 at 0:54
早速副題を間違えている。『大統領暗殺裁判 16日間の真実』だよ! すみません!
16日とは、公判開始から死刑判決が決まる迄の日数。近年のこの手の映画って『○○の○○日間』みたいな副題つくこと多いな、思いつくだけでも『モガディシュ 脱出までの14日間』とか『極限境界線 救出までの18日間』がある。『モガディシュ 救出までの18日間』『極限境界線 脱出までの14日間』になってても気付かなそう……と『極限境界線』を観たときに書いた。個人的には皮肉と願いが込められた原題を尊重したいが、韓国現代史において非常に重要なこの裁判がわずか16日間で片付けられた、という異常さを示すものとしてこの副題に入れたのはよかったと思う。
原題『행복의 나라(幸せの国)』、英題『Land of Happiness』。2024年、チュ・チャンミン監督作品。イ・ソンギュンの遺作。今月にはソン・ヨンギュが亡くなり、キャストのふたりがいないことになった。本国で公開されて一年しか経っていない。
今作は、朴正煕大統領暗殺事件に関わり逮捕された中央情報部(KCIA)部長随行秘書官の裁判を描いたファクションだ。『KCIA 南山の部長たち』と『ソウルの春』を繋ぐ作品でもある。1979年10月26日に起こった暗殺事件、その裁判期間中である12月12日に起こった軍事クーデター。裁判にかけられた7人のうち5人の死刑が執行された1980年5月24日、光州では『タクシー運転手』で描かれた惨劇が起こっていた。この間たったの半年。上記3作を観ていなくてもわかる内容にはなっているが、観ていると「KCIA庁舎のある南山ではなく陸軍本部である三角地に行った」こと等、弁護士が争点にしようとしていることに引っ掛かりを覚えず観られる。
秘書官は内乱幇助という罪状にそぐわない死刑判決が下され、首謀者の裁判中にも関わらず真っ先に銃殺刑にされた。現役軍人だったため1審のみの裁判で、控訴出来なかったためだ。彼以外の被告は上告棄却後、5人が絞首刑にされた。弁護団は脅迫され、証人は拘束される。公正であらねばならない筈の裁判は徹底的に妨害され、思想弾圧の手段として死刑が正当化された。
裁判は勝ち負けが全てという弁護士は、どんな手を使ってでも勝ち目のない裁判を覆そうとする。首謀者の命令に従っただけと主張し、秘書官だけを助けるつもりかと弁護団長に叱責される。全斗煥(まあ違う名前になってるがもういいじゃん全斗煥で)に面と向かって主張を述べる。あの時代、実際にああいうことをしたら社会的に(或いは物理的に)抹殺されてしまったであろう言動で弁護士は突き進む。こんな理不尽なことがあってたまるか、と。結末を知っている観客は、胸が潰れるような思いでこの架空の人物である弁護士の奮闘を見守る。それでも、と。
法廷内外での策略行為だけでなく、弁護団や被告の家族にいやがらせや脅迫をする市民の様子も描かれる。独裁者には支持者がいるのだ、ということを思い知らされる。どの国のどの時代でも変わらないこと。しかし、それでも信念を貫く人物というのもどの国どの時代にもいるのだ。大統領を殺しても何も変わらない、善悪など裁判には必要ないと皮肉ばかりいっていた弁護士は、堅物な軍人である秘書官と対話する過程で、善悪について考えることになる。
[5]続きを読む
08月22日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る