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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『工作 黒金星と呼ばれた男』
『工作 黒金星と呼ばれた男』@シネマート新宿 スクリーン1
『工作 黒金星と呼ばれた男』めちゃめちゃよかった…台詞劇好きなひとは是非。あの緊迫感溢れる言葉の応酬は舞台劇のそれ、繊細な表情を捉えられるのは映像の特権。根本理恵さんの翻訳がまたよくて。これは惚れる pic.twitter.com/JSCqiyihNz― kai (@flower_lens) July 19, 2019
あの状況での「僕と冒険しませんか?」……名台詞!
原題は『공작(工作)』、英題は『The Spy Gone North』。2018年、ユン・ジョンビン監督作品。「黒金星」はブラックヴィーナスと読みます。工作員のコードネームですね。北朝鮮の核開発について調査するため、韓国から送り込まれた韓国国家安全企画部(ex. KCIA)の工作員。長期的、慎重な根回しの末、北の対外経済委員会所長の信頼を得た彼はときの最高指導者・金正日と接見する機会を得るが……。
「黒金星」ことパク・ソギョンのモデルは実在する(後述)。映画のどこ迄が史実か、それは判らない。金大中が大統領になったのは事実、その裏で北と南に取引があったのは事実。しかしその取引の内容は闇のなか。祖国に命を捧げると同時に祖国を疑うことになる黒金星は、国の捨て石になるものかという意地よりも、真実を知りたい、間違っていることに加担したくない、それこそが国のためになるという気持ちを優先させたように見える。それは恐らく所長も同じ。だからふたりは「冒険」という大博打を打つ。
序盤と終盤はかなり圧縮、開巻15分もしないうちに北朝鮮側が接触してきて、40分程で平壌に入っている。黒金星が北を出国してからの十年も嵐のような展開、そして濃厚。対して中盤はじっくり見せる。黒金星と所長が駆け引きを通じ、お互いの信じる「国」と「信念」を通じて徐々に信頼関係を築いていく様子を、対話で丁寧に積み上げる。カメラはものいわぬ人物の顔にこれでもかと接近する。そしてここぞというタイミングで、その表情すら窺えないくらいのひきで撮る。観客はふたりに浮かんでいるであろう表情を想像し、胸を熱くする。なんて粋で、効果的な演出。
黒金星はファン・ジョンミン、所長はイ・ソンミン。ふたりは「無」にすら映る表情を見せる。黒金星は工作員、所長は独裁国家の人間という理由からのそれだが、黒金星はときに「演技」として感情的な面を露にし、所長は「本音」として終盤の激情を見せる。他の誰も知らない秘密を共有し、二度とない時間をともに過ごした、友というにはあまりにも運命的なふたりの、抑制と解放の表現が素晴らしい。ふたりの人生を現したかのような偽物のロレックスと、矜持が刻まれたネクタイピンをそっと見せるシーンは万感胸にせまる。黒金星の上司をチョ・ジヌン、北の国家安全保衛部課長をチュ・ジフン。保身と野心の果てに破滅していくという対比が見事。『金子文子と朴烈』の水野役、キム・イヌがクスッとなる役で出てた。あとパク・ソンウンがいい味で……って出てるって知らなかったよ! いい役だなあれ!(笑)なんかノホホンとしててさ……そうそう、随所に見られるユーモアもいい。ジフンさんのクラブのシーンが見ものです。このとき一緒にいる北側幹部役が『新しき世界』にも出演していたキム・ホンパで、これがまあかわいらしい。このシーン、その後の彼らを思うとせつなさ倍増です。
多くは台北で撮られたようだが(何しろ韓国人は世界で唯一北朝鮮に入れない国民だ)、セットやCGによる北の街の描写が見事。半年程前に読んだ『TRANSIT』(42号:「韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ」)で見た建物が次々と現れる。『タクシー運転手 約束は海を越えて』が1980年、『1987、ある闘いの真実』が1987年。韓国の近代史をほぼ10年区切りで見ていく。自分の記憶と照らし合わせ乍ら、徐々に身近な出来事として感じられるようになってくる。1996〜97年……まあ、まだ最近と感じるくらいには自分も歳をとっている。天神山のフジ行ったなー、富士山で電気グルーヴの「富士山」聴けて楽しかったなーとか。「富士山」、そんな前の曲か。色褪せないなー。
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07月19日(金)
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