ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『CITY』『神と共に 第一章:罪と罰』
『CITY』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

街の「ヒーロー」の物語、という程度の情報しか入れずに観に行ったのですが、そういう「ヒーロー」だったんかい! と驚きました。なかなかに思い切った……ときどき我に返る箇所もありましたが、あ、そういう話ね! と了解すれば面白く観られた。以下ネタバレあります。

なんと、MARVELとかDCとかの、そういう「ヒーロー」だったんです。しかも結構な直球で。藤田貴大=マームとジプシー印の、各シーンのリフレインがタペストリーになっていく構成、日々のくらしの繰り返しから浮かびあがってくる登場人物の背景が、まさかそこへ結びつくとは。そのことが徐々に明らかになっていく途上では「んん?『AKIRA』?」と思ったのですが、いやいや全貌はアメコミヒーロー仕様でした。街を、ひとを救うのだもの。あるいは、彼らはそうありたいと夢想する若者たちなのか?

女性の右腕を集める「コレクター」、新しい街をつくりたい「あのひと」と、かつて同じ施設で生活していた「ぼく/おれ」「幼なじみ」の闘い。彼らは特殊能力を持っており、「ぼく/おれ」の「いもうと」は改造されて「兵器」になってしまう。施設の先輩だった「やどなし」や、「ぼく/おれ」の「(上司)作業員」、「ぼく/おれ」が飼っているねこのかかりつけ「獣医」といった大人たちも彼らに加勢して……。登場人物たちのバックグラウンドに対して事件のスケールがちいさく、アンバランスな印象ではあった。シリーズ化すれば「これはまだ序章だったのだ」といえるけど、一本の作品としては「ええ、あんだけ風呂敷ひろげておいてここで終わるの?!」と思ってしまう。女の子が「兵器」になるという流れもなあ……この辺り、前述の我に返る箇所。SFを舞台でやる難しさも感じました。

とはいえ、森永邦彦(ANREALAGE)によるスタイリッシュな衣裳(照明(南香織)に反応して色やパターンが浮かびあがる)、無機質なセット、音響や照明で表現した超能力の闘い、そして絵になる演者たち、というヴィジュアルはかなり見応えがありました。柳楽優弥、内田健司はものいう瞳と声の力で芝居をひっぱる。宮沢氷魚、井之脇海はロングコートが似合う長身モデル体型で、「異形の者」にふさわしい浮世離れした美しさ。青柳いづみの通る声と姿勢、菊池明明の長身痩躯も魅力的。續木淳平の佇まいには透明感があり、これは新しい発見。スケートボード、ミニセグウェイによる横断や、ポンコツ軽トラ、ねこを運ぶキャリーバッグの見立ては無機質なのに愛らしい。キャリーバッグよかったな、動物病院のシーンにならずとも「あー、あのなかねこが入ってる」と感じさせる形状とサイズ。

猟奇事件の犯人が獲物を集める冷蔵庫、Sigur R醇ps「Untitled 1」の使用、ボードのスライドによって表現される時間と空間の移動、といった演出は、この劇場、ということも含め蜷川幸雄作品、特に『海辺のカフカ』への返歌にも感じた。「あんたらは遅すぎる、待ってらんない」。そうして藤田さんはどんどん先に行くのだろう。「CITY」を救った彼らの活躍を誰も知らないなんて、ちょっと悔しいじゃないか。蜷川さん観たら喜んだろうし悔しがったろうな。

それにしてももはや専売特許、演者とスタッフにめちゃめちゃ負荷をかける(体力的に)藤田貴大作品。皆さんヘトヘトだと思います。この日はマチソワ。食べて飲んで休んで! 無事千秋楽を迎えられますように。

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・モチーフにしたと思われるMCUキャラクター
内田さんはまんまコレクターですね。宮沢さんはクイックシルバー、青柳さんはネヴュラかな。妹だし。じ、じゃあ井ノ脇さんはサノスか……ひぃー

・使用曲、といえば
Massive Attackの「Teardrop」がオープニングで流れてきて面喰らう。しかも聴いたことのないカヴァーver.で、ちょ、誰?! と心が千々に乱れ、序盤の台詞が頭に入らなくれ困った。帰宅後調べようとYouTubeで聴きまくったら逆に誰かわからなくなった…こんなに沢山カヴァーされてんのね……。Jos醇P Gonz醇@lezかNewton Faulknerかなー。カーテンコールではオリジナルver.が流れ、Elizabeth Fraserの声に涙しました。人生のサウンドトラックの一曲です

・舞台でSF、といえば

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05月25日(土)
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