ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[647599hit]
■『アシュラ』
『アシュラ』@新宿武蔵野館 1
2016年、キム・ソンス監督作品。原題『아수라(阿修羅)』、英題『ASURA:The City of Madness』。
書いているのは3/14。3/4の初日初回に観て(満席御礼〜)、一週間後にもう一度観てきました。なんだ最高か、私も市長からみかんもらいたい〜! 金属バットや牛刀で見慣れてる韓国ノワールの殺し合いに警察が絡むと銃も存分に使えてこれまた最高かはっはっは! 底が見えない悪徳市長(ファン・ジョンミン)、その犬として働く刑事(チョン・ウソン)、市長に支配されていく後輩刑事(チュ・ジフン)、市長の不正を暴くためには手段を選ばない検事(クァク・ドウォン)と捜査官(チョン・マンシク)。架空の街アンナム市でくりひろげられる潰しあい。
きっかけは死の床にある妻の治療費を稼ぐため。脅迫や隠蔽といった汚れ仕事は自分の身を日々がんじがらめにしていく。市長と検事、どちらにも従いどちらをも欺く。「俺は勝つ方につくだけ」、しかし枷は増える一方。いつのまにか妻をも裏切っている。こんな板挟みつらすぎるわ…という思いがピークになったとき、刑事はふたりに言い放つ。「ふたりで話し合ってください、板挟みにはもう耐えられません」。
初日初回、このシーンでドッと笑いが起きました。笑わずにはいられない程のどんづまり。他にも笑えるシーンは沢山あって、市長があまりにも悪すぎて笑ってしまう、刑事がいきあたりばったりすぎて笑ってしまう。不正が白日のもとに晒されることはない。それなら自分ひとりで破滅するものか、おまえも道連れだ。もはやヤケのやんぱちです。今の韓国だからこそ生まれた作品のように感じました。二年前に公開された『ベテラン』のような、胸のすくような希望は全くない。どちらにもファン・ジョンミンが出演しており、正義の刑事と悪徳にまみれた市長を演じているところも象徴的です。「国民的俳優」は市井のひとびとの思いを代弁する。
全てはこれのためだったか! と思える最後の40分、葬儀場のシーンが素晴らしい。血で血を洗うとはこのこと。殴り、蹴り、刺し、撃つ。積み重なる死体、血液と体液で滑る床の風景。振り返ってみれば台詞のないシーンほど印象に残っている。傷だらけの二枚目チョン・ウソンの顔、思慕と憎悪がないまぜになったチュ・ジフンの泣き顔(これは強烈に印象に残った!)、不気味としかいいようのないファン・ジョンミンの笑顔。ふてぶてしい番犬から従順な仔犬へと変化するクァク・ドウォンの目。ものいわぬ役者の表情、物語る背中、空撮で見下ろす夜の市街。雄弁な映像の数々。カーチェイスのシーンはどうやって撮ったんだ?! と衝撃。
展開としては「どんどん悪くするぞ」「最悪の展開にするぞ」という狙いが先走っているようにも感じ、そのため間延びするように感じられるところもある。いろいろと歪なつくりではあるのですが、一度虜になったら逃れられませんね。最後の方になると悪夢というかもはやファンタジーめいてくるところも好き。この修羅場はいつ迄続くんだ、誰も通報しないのかとか…こわすぎるから封鎖して全滅する迄ほっとこうって感じだったのかしらとか……隣で葬式してたひとたちとばっちりで気の毒すぎる、あのガラガラおしてたひともねえ。どうなったのかしらねえ。巻きぞえ喰らってないといい、全ては夢のなかだといい。でも夢じゃないんだね。いやー、たまらん。
話が前後しますが、ジョンミンさんとドウォンさんは『哭声 コクソン』でも共演しており、もうなんとも…同じひととは思えない……役者ってほんとすごい……と思うばかりです。
-----
なんともまとまりませんが以下小ネタを。
・ソンモ(チュ・ジフン)が前髪あげてスーツになってからネモジュンに見えてしょうがなく、ネモジュンもうやめて! とか思っていた。ソンモはいい役だよねー、おいしいともいえる。でもそれをより魅力的にしたのはジフンさんの力。カジュアルでラフ、坊ちゃん髪型の刑事からの変化がほんとあひるが白鳥になったようでしたよ
[5]続きを読む
03月04日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る