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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『ライン(国境)の向こう』
劇団チョコレートケーキ with バンダ・ラ・コンチャン『ライン(国境)の向こう』@東京芸術劇場 シアターウェスト
やーこれはよかった。太平洋戦争後、日本が南北に分断されていたら? と言う設定。脚本の構成だけでなく、緊張状態のなかにぽろりと生まれる軍人や民間人の本音等、台詞の緩急が見事。また役者がうまくてな……。『追憶のアリラン』もよかったし、チョコレートケーキはこれからも観ていこう。今回は近藤芳正さんのユニット、バンダ・ラ・コンチャン(実は観劇当日迄“パ”ンダラコンチャンだと思ってました…ご、ごめん……)とのコラボです。
山奥に居を構え、自給自足で暮らしている集落。集落といってもそこには実のきょうだいとその配偶者で構成された一族の二世帯しかいないようだ。戦後住んでいた土地が分断されてしまい、ふたつの家族は北と南に分かれてしまった。そうは言っても境界線に壁や有刺鉄線が立ちはだかることもなく、一族は国境をまたぐ田畑を共有し、以前と変わらぬ日々を過ごしている。広大な土地の世話には人手がいる。田植えや収穫はふたつの家族が協力して行う。互いの家に居候し国境警備にあたる南北の兵士も、余暇には田畑の作業を手伝う。ふたりは軽口を交わし煙草をやりとりする仲でもある。しかしある日、南北戦争が勃発。家族にも、ふたりの兵士にも見えない壁が見えてくる。
劇中では日本戦争と呼ばれるこの戦争、流れとしては朝鮮戦争とほぼ同じ。ここ二年で韓国映画を沢山観ていると言うこともあって、『JSA』や『トンマッコルへようこそ』、『高地戦』のことを思い出し、その理不尽にううっとなる。同じ民族で、同じ言葉を話す。暮らしの場も変わらない。しかしいくら人里離れていても政治の影響力は及び、こどもはそれぞれの国の教育を受ける。自分たちの国に都合のいいものを「理想」として掲げる教育は、敵とみなす隣の国の重箱の隅をつつきあう。未知は恐怖を生み、恐怖は「やられる前にやれ」と言う図式を生み出す。両国の背後に構えるアメリカとソ連と言う国について考える。細部迄考え抜かれた設定で見れば見る程違和感がなく、70年前樺太、沖縄から何故侵攻が進まなかったのか、日本が分断されなかったのか不思議なくらいだ。
緊迫した場面が続くが、日々の生活では始終気を張っている訳にもいかない。食べるし寝るし、働けばさぼるひともいる。属性に関わらず喧嘩が起こり、年長者や腹の据わったものが仲裁に入る。冗談を言い合い、笑う時間もある。戸田恵子さん、高田聖子さんによる義理の姉妹が象徴的で、緊張が起こると緩和にまわり、思想だ跡取りだと癇癪を起こす男たちをたしなめ臆病な男たちにハッパをかける。暮らしていくには、生きていくには、目の前にある問題から向き合おう。私たちにはそれしか出来ない、と。
この手の芝居は歴史を知る、学ぶと言った側面もあり、どうしても肩肘張った言葉が続いてしまう。そこに「生活する人々」の息吹を感じさせる台詞を絶妙のタイミングで組み込む、古川健さんの脚本がとても緻密。それらのちょっとした台詞は、登場人物の性格や、心の奥にしまって気配を観客に知らせてくれる。その細やかな言いまわしを乗りこなせる役者が揃ったこともとてもよかった。「こどもたちを守るのは大人の役目だ」と言うような台詞があった。あたりまえすぎるこの言葉が、今ではとても危うい。それをあたりまえのことだと凛と発声した役者たちがとても頼もしく思え、まっすぐに感動することが出来た。
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12月18日(金)
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