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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■木ノ下歌舞伎『心中天の綱島』
木ノ下歌舞伎『心中天の綱島』@こまばアゴラ劇場
演出はFUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介。木ノ下歌舞伎作品は杉原邦生演出でしか観たことがなく、FUKAIPRODUCE羽衣マナーの「妙ージカル」もお初です。近松門左衛門の『心中天綱島』を観るのもお初。いやはや、かなりもってかれました。
楽曲と歌詞がとてもいい。劇中五曲、ストーリーと登場人物の心情をテーマに紡がれる言葉がメロディとともにとても印象に残る。一回しか聴いていないのにしっかり耳に残る。歌詞カードが配布されていたので終演後読んで噛み締められるのもいい。とは言うものの、字面で読まなくとも言葉はしっかり伝わるので、最後の「愛と死」は節ごとにドカンドカンとウケてました。浄瑠璃パートを語りとヴァイオリンでやったところも効果的(武谷公雄の語りがまた巧い!)。
対してどこ迄狙いであったかが判断つきかねるが、出演者の歌唱力の差が激しい。唄い方のスタイルもまちまちで、これは個性がどうこうと言うよりも舞台で歌を聴かせる(言葉をはっきり伝える、演じているキャラクターを反映させたうえで唄う)技術の差を感じてしまい、こうなると「妙ージカル」と言うのは単にパロディなのか? と感じられてしまうのが残念。歌詞はしっかり伝わっているだけに惜しい。
これらは演者だけの責任と言い切れない。舞台装置の床が平均台を配したもので、その不安定な地盤が演者の身体の不安定に直結している。立ち位置が安定しないため発声も揺らぐ、動きに気をとられているのが観ている側からもはっきり感じられてしまう。登場人物たちの地に足のつかない生き方を表すのだろうと演出の狙いは理解出来るものの、脚に青タンをいくつもつくっている役者もいて気になってしまう。「怪我しませんように」「事故が起こりませんように」とハラハラしてしまい、気が散ってしまう。
出演者たちが自ら転換も行い、その地盤に床を張って演じられた紙屋の場面(「箪笥の思い出」)が出色の出来。日煬[介演じる治兵衛と伊東沙保演じるおさんの交感の推移に集中出来た。箪笥から出てくる手紙、指輪等のモチーフ選択とその扱いが細やか。聖人かと言いたくなる程のおさんの献身と抑圧、暮らしの場に足を降ろした途端現実的な後悔が露わになる治兵衛。文字通り地に足のつかない治兵衛と小春の道行との対比が強い印象を残したが、そうなると平均台を辿々しく渡り乍ら演技をする場面が殆どの小春は分が悪い。演じる島田桃子への負担があまりにも大きいと感じてしまう。動きを抑制した「錆びた時計」での島田さんは恋に苦しむ女性の心情をせつなく表現していて素晴らしかっただけに!
まーそれにしても治兵衛が煮え切らないダメ男の典型で、妻の出産にびびって逃げたり心中相手にためらい傷刺しまくりで(描写もかなりヒドい)おめーはよう! と言いたくもなる…日烽ウん素晴らしい(笑)。また小春とイチャイチャする場面やおさんとの恋が育っていく場面の描写が巧いんだ、にくらしい! このかわいらしさが心に残るだけに、心中の顛末は因果応報ではあるものの、それにしても酷い話よのうと思わせられる。横恋慕してる太兵衛がまた嫌な奴でよう…演じた小林タクシーは舅五左衛門(おさんの父)も演じていて、これがまたふたりともヒドい人物なのよ、憎らしい程巧いのよそれが。治兵衛おば(おさん母)と河庄女房演じた西田夏奈子がまたいい、歌は抜群に巧く、コメディ的なパートも客を巻き込む力がある。声といい風貌といい、ex.第三舞台の山下裕子を思い出した。
と言うのも、先日ぴーとさんと武谷さんが声も顔も吉田朝に似てるとやりとりしたばかりでな……。武谷さんは今回治兵衛の兄、粉屋孫右衛門役。これがまた惹きつけられる演技で、現代口語と当時の言葉を織り交ぜて語っても違和感がない。所作のひとつひとつが絵になる。非常に色気もある役者さんですし、今回観ていて武谷さんでガッツリ恋愛ものの芝居を観てみたいと思いました。今迄観た作品、どれも年長で若者を見守る立場の役ばかりなので。
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09月26日(土)
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