ID:43818
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by kai
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■『ア・ラ・カルト アンコール!〜役者と音楽家のいるレストラン』
『ア・ラ・カルト アンコール!〜役者と音楽家のいるレストラン』@青山円形劇場

こんなことってあるのだなあ。さよならをした作品に、アンコールがあるなんて。嬉しくもあり、寂しくもある事情。そしてその寂しさは、この作品にとっては三度目だ。どれが「本当の最後」かなんて、今となってはどうでもいい。インタヴューで高泉さんが「何故私は記録に残らない、その場限りで消えてしまう演劇を仕事に選んだのだろう」と話していたことを思い出す。その場限りで消えてしまうからこそ、そこで受け取ったものは何ものにも替えられないそのひとだけの宝物になるのだ、記録に、形に残らない宝物だと観客は思う。

過去上演されたエピソードから選りすぐりのものを“ヴィンテージ版”として、比較的長尺で。クリスマスにひとりでレストランにやってくる女性、タカハシ、マダム・ジュジュと言ったおなじみの面々が登場する。リニューアルオープンしてからのシングルモット愛好会や、長い時を経て再びシングルになった男女もやってくる。そこにはノリコさんはいない。ペギーさんはいない。老夫婦のダンスはない。料理を食べて、その口のなかを見せる女の子と、その振る舞いに困惑するお父さんもいない。山田のぼるくんは出て来た。ご両親(のなかのひと)は違うひとだった。「ウチのお父さんは日替わりなんだ」だったかな、そんな台詞がちょっとしみた。

「私だけは生き残りますように」と言う台詞がなくなった。ワインサービスがなくなった。閉店後一服しようと煙草を取り出したギャルソンは、火を着けようと近付いた瞬間キャンドルを奪われるようになった。長く続いた公演だけに、社会情勢や世の中の空気が反映された出来事も沢山あった。無邪気な時代が過ぎていく。劇場(レストラン)閉館(店)に関するタカハシの憤りが爆発する場面には拍手喝采。その後政治的な発言に傾きそうになり、ちょっとだけ客席が身構えたように感じた。しかしそこは流石の高泉さん、絶妙なタイミングで「こ゛の゛よ゛の゛な゛か゛を゛お゛〜!」とあのキャラクターを出してきた。もう大ウケ。いやー、タカハシの声ってあれにピッタリだね! なんて、最終公演にして新しい発見をしたのは収穫でしたわ……。

帰って来た陰山さんは、山本さん、本多さん、中山さんとのコンビネーションもちょっぴりぎこちなく、繁忙期にヘルプで来たギャルソンと言う風情。実際「ちょっと手伝いに来ただけですから」と言っていた。緊張もあったようで「ひとっつも、思い通りに出来なかった!」なんて言い放って大笑いされていた。登場したときの歓声と拍手にはやはり独特な空気があり、こちらも胸がいっぱいになった。ちょっとだけふっくらしたけれど、あの柳腰は健在。髪に白いものが増え、より一層の渋い魅力。そんな彼があのアホ衣裳(賛辞)で「Watermelon Man」を唄い踊る訳ですから、そりゃあ客席から悲鳴も出ますよ(笑)。何が出るか知らないまま観たかったので、終演迄メニュー(この公演はプログラムのことをそう呼ぶ。スタッフの方も「本日のメニューです」と言って手渡してくれる。そういう細やかなひとつひとつに、しっかりとした世界があった)を開かないでいたのですが、開演前後ろの席のひとが「きゃあ、『Watermelon Man』やるよ!」と話していたのが聴こえてしまった(笑)。いやーもう待ってましたのやんややんやでしたよね……。

ROLLYの歌と中西さんのヴァイオリン。クリスのベース、竹中さんのギター。この作品から生まれたコラボレーションの数々を振り返る。とても贅沢で、芳醇なサロンでもあったこのレストラン。ピアノの北島さんは十二年振りの参加、この日が最終日でした(翌日からは林さん)。

最後の挨拶で高泉さんは「また、ア・ラ・カルト(だったかな、このレストランで、と言ったかな)で会いましょう」と言ってくれた。大きな拍手。余談だが、タカハシたちの「閉店しちゃうって本当ですかね」「立ち退きらしいよ」の“立ち退き”を、私は最初“勝鬨”と聴き間違えた。勝鬨に移転って設定? ああ、いいかもね。ここ数年開発が進んでいるし。川勝さんの住んでいた街だ。なんてしばし考えた。うん、勝鬨で新装開店、いいかも知れない。一瞬の楽しい妄想。


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12月22日(月)
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