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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『爆烈野球団!』
『爆烈野球団!』(DVD)
ファン・ジョンミン出演作。原題は『YMCA야구단(YMCA野球団)』、英題は『YMCA Baseball Team』。2002年作品。日本では未公開ですが、2010年4月に上映イヴェントがあったそうです(『韓国併合100年 日本未公開作品「爆烈野球団!」上映』)。
うええ〜すごくいい話だった…しかしヘコむ話でもあった……。ソン・ガンホ主演、伊武雅刀と鈴木一真も出ているのに日本未公開って事実にもモヤモヤしたよね……。1905年、朝鮮初の野球チーム『皇城(ファンソン)YMCA野球団』のお話。
皇城(漢城、現在のソウル)の郊外でサッカーをする(ちなみにサッカーは朝鮮時代(1393〜1897年)末期に伝来したそうです)主人公ホチャンと、その傍に寝そべって英字新聞を読んでいる(と言いつつアルファベットの数を数えているだけ)親友グァンテのシーンで幕が開きます。転がっていったサッカーボールを取りに、大きなお屋敷の庭へと忍び込むホチャン。ボールは見当たらず、拾ったのはサッカーボールよりもちいさな球。現れた白人の青年たちが、これは野球と言うスポーツに使う球なんだと話しかけてきます。彼らはYMCAの宣教師。続いて出てきた外交官の娘ジョンニムに誘われ、ホチャンは朝鮮で初めて結成される野球団に入団を決意します。
階級制度や科挙(今で言う国家公務員試験)が廃止され、近代化への道を進む朝鮮半島。暗行御史(皇帝の隠密)になる夢を失ったホチャンは勉学にも身が入らない。彼は野球に夢中になります。監督を務めるジョンニムはアメリカやフランスに滞在した経験を持つモダンな女性。ピッチャーのデヒョンは日本で野球に親しんでいた留学経験者で、抗日運動家と言う裏の顔を持つ。親日派の父を持つボンボンのグァンテ、元両班(貴族)とその召使い、貧しい双子の少年たち等、野球団のメンバーの出自はさまざま。しかし野球を愛するようになった彼らはみるみる成長していき、連戦連勝のチームになっていきます。
……やたらと注釈が多いのにお気付きでしょうか。はい、これ鑑賞後に調べました。れ、歴史の勉強になる……。しかしこれらを全く知らずともその時代の雰囲気は感じ取れるようなつくりになっています。しのびよる軍靴の音、日々不穏になっていく日韓両国の関係。スポーツが政治に利用されたり、政情に巻き込まれて行く様子はとてもつらい。そして、それでもスポーツマンシップを貫く選手たちの姿はとても美しい。
最近知ったFCディナモ・キエフのことを思い出しました。1942年ドイツ空軍クラブとの試合で、勝ったら殺すと警告されていたにも関わらず勝利し、多くの選手たちが処刑されたフットボールチーム。幕切れに映る「YMCA野球団はあまりにも強過ぎたので、負け試合しか新聞に載りませんでした」と言うテロップには、いろいろなことを考えさせられました。この試合はきっと記事にならなかった。それでも、あの日あの場所にいた皇城市民は、彼らの勝利を見たのです。
敵方にあたる日本選手にもフェアな精神が宿っています。将校も試合を途中で止めることはしません。こういう時代があった、そんななか市井のひとびとはどう生きたか。厳格な父親に野球をしているのがバレて慌てるホチャン、父親について日本将校と面会したグァンテの呑気な言動、元召使いを蔑んでいた元貴族の改心。優しさと希望に満ちたコメディタッチのドラマは、どんな時代にも笑顔の瞬間があったことを教えてくれます。ホチャンを演じたソン・ガンホをはじめ、役者たちの愛嬌ある演技も光ります。ジョンニムの父の葬儀で、ホチャンがジョンニムに書いたラブレターが辞世の言葉として読み上げられてしまうシーンには和んだわ……。
幕切れの、ホチャンの表情が心に残る。野球団のメンバーは、このとき二十代〜四十代だろうか。この後四十年、彼らはどんな運命を辿ったのだろう。
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06月27日(金)
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