ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
[648549hit]

■『オセロ』
『オセロ』@世田谷パブリックシアター

いやー面白かった。某公演の「スタンディングオベーションをしてください」話にはドンびきしましたが(しかもこれ複数の公演であったとのこと。ひくわー)、こういう形で観客を参加させる手法は大好きです。逃してしまった『4 four』でもこのような仕掛けがあったとのこと、白井さんの興味は今「観客が観客でいられなくなる空間」に向かっているのでしょうか。以下ネタバレあります。

観客席に設置されている「演出席」。座席に配布されていた、“客席内を俳優が移動したり走り回ったり”“金属缶を大きな音で叩いたり”する、“場面参加の意味から、ご起立のお願いをすることが”ある等と書かれた「ご注意とお願い」。そしてキャスト表には“ヴェニスの議員/サイプラス島の島民……観客の皆様”。劇中劇としての『オセロ』としても観られるので、福田恆存による訳も自然に聴けます。日本語訳としてはかなり古い福田訳をこれだけ滑らかに耳に入れることが出来たのは、出演者たちの台詞まわしが素晴らしかったとも言えます。

この手の観客を巻き込む演出、二度は出来ないと言うか諸刃の剣と言うか、戯曲に対しての必要性がかなり確固としたものになっていないと単なるハッタリに終わる場合があります。しかし今回、観客が目撃者あるいは傍観者として物語中に存在することは、さまざまな効果を生んでいました。何故オセロはいとも簡単にイアーゴの策略にかかってしまうのか?善良に見えるエミリアは何故ああもオセロを口汚く罵ることが出来たのか?そもそも彼女は何故あの悪人イアーゴの妻なのか。そしてこの流れで観て行くと、オセロと娼婦ビアンカの近似性が見えてきます。数週間前、大阪市長の例の問題発言を巡り、twitterで『五木寛之氏の引揚体験』が話題になりました。羨望や嫉妬から生まれるさまざまな感情、無意識の差別意識。物語の登場人物中、これらと全く無縁の人物はデズデモーナただひとりです。そして前述したように、観客はこの物語のただなかに存在し、登場人物として扱われています。白井さん厳しい……。

しかしこうやって、自分のなかにある怪物を再確認し律する機会は定期的にあっていいように思いました。ぐうたらでなまけもので御されやすいからねー自分。逆に、観客のなかに幾人かはいるであろう(そう思いたい)デズデモーナのような心を持った人物が、この演出をどう感じたか知りたいです。

オセロとイアーゴの関係性を主演俳優と演出家の確執として描こうという仕掛けは若干弱かったように思います。それがいちばん強調された、一幕終了後の休憩時間にあった出来事をどのくらいのひとが目撃していたか…仲村さんが演出席にいる赤堀さんのところへ向かってきて少し話をしたあと、机を激しく叩きます。憮然とした表情でふたりは客席から出て行きます。既にトイレや物販コーナーに向かっていたひとも多く、二、三階席のひとにどれだけ伝わっていたかは少し疑問です。ここ以外に主演俳優と演出家の目立つやりとりはないので、最後の最後、演出家が主演俳優を射殺する場面が唐突に思えてしまいました。演出家を演じているときの赤堀さんが、どういった態度で仲村さんを見ていたかをもうすこし見たかった気もします。「演出席」が自分の席の二列後ろだったのでなー、そんな頻繁に振り返れなくて…それでも結構振り返ってましたが(笑)。


[5]続きを読む

06月21日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る