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by kai
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■『アジア温泉』
『アジア温泉』@新国立劇場 中劇場

『パーマ屋スミレ』がとても心に残る作品だったので、観に行くことにしました。鄭義信さんの新作(ベースは『青き美しきアジア』だそう)、演出はソン・ジンチェクさん、日韓合同公演。

と言う訳で『パーマ屋スミレ』と同じ劇場だよねと小劇場に行ったらなんかロビーがまっくらで、上演中のポスター見たら『SADAKO』だったので二重の意味でヒィッとなった…慌てて中劇場へ移動。入るとおおっ、ロビーに露店が連なっております。夢の温泉リゾート!足湯ならぬ手湯や射的、撮影コーナー、お菓子やお茶のお店も。おみやげコーナーもありました。「新国立劇場」と名前入りの法被をきた職員さん?たちが呼び込みをしております。開演前と休憩時間が楽しくすごせました。

しかし開演前と休憩中、そして終演後ではこれら露店を見る目が変わります。ああ、この温泉リゾートはまさしく夢だったのだ。これからもここは夢の場所でしかないのか、それとも?

アジアのどこかにある島に、温泉が湧くという噂。いろんなひとがやってくる。温泉リゾート開発でひとやまあてようと言うひと、故郷で人生をやりなおそうと全てを捨てて移住しようとするひと。しきたりを強く守る島のひとがいれば、その慣習を捨てようとする島のひともいる。セクションは大きく三つに分かれます。土地を断固として譲らないアジョシと彼をとりまくひとびと、土地を買い取ろうとやってくる兄弟。温泉を探してあちこちの土地を掘り続ける三人組。そして彼らを遠くから眺めているようで、実はどこに存在するか判らないリヤカーの男女ふたり組。土地や慣習を巡る対立に呑み込まれる恋人たちはロミオとジュリエットを連想させ、会津磐梯山を唄い乍ら明るい未来への希望を失わない三人組を見ていると、大きな爆発音は噴火ではなく「あの」事故によるものではないかと思い至る。「留守にしている」故郷へ帰ろうというリヤカーのふたり組は、『寿歌』の彼らを連想させます。さまざまなモチーフが鏤められ、生者と死者の心が通い、普遍的なテーマを浮かび上がらせます。

島はどこにあるものか、対立しているのはどこの国のひとたちか、と言うのは具体的に明らかにはされません。しかし、登場人物たちは日本語と韓国語をしゃべり、ひとによっては通訳を介せずともある程度お互いの言葉が解る。このお互いの国の言葉が「少しは解る」ことの意味にも、歴史が深く関係しています。そんな歴史の激流に溺れてしまった者、取り残された者たちを優しい目線で描く。終始笑い泣き。根っからの悪人はいないのです。ひとが悪人になるのはさまざまな問題によるもので、どこかにその問題を解決する方法がある筈だ。その方法を探して行こう。それがどんなに困難なことで、何度挫けても、何度打ちのめされても。志半ばで亡くなったひとのためにも。そんな決意も感じました。発展途上の印象もあり、ポイントになりそうな役が流れていきがちなシーンもあったのですが、これで終わり、ではなく経過として考えることは重要にも思えました。

土地を「札束でひっぱたいて」買い取ろうとする兄カケルに勝村さん、島のひとたちと仲良くやっていきたいと奔走する弟アユムに成河くん。アユムと恋に落ちるひばりにイ・ボンリョンさん。島のひとたちが言ってたようにアユムはひばりを利用しているのではないかと言う疑いをしばらく消せなかった残念な自分。汚れた大人だわ……。そんな汚れた大人たちにもまっすぐ向かって行く訳ですよアユムは!ごめんよ悪かった!死んでから悔いても遅いってのを痛感したよ!あれよねやっぱ周囲の雑音に惑わされず、アユムのキラキラしたまっすぐな瞳をただ信じればよかったのよね!ごめんよおおおおおとアジョシのように反省しました。そしてこの反省は活かさなあかんで…とも思いましたほろり。それにしてもアユムとひばりのカップルかわいくてねえ。ひばりは最初アユムを警戒してるんだけど、アユムのまっすぐさに心を開いていくのよーラブラブになってからのふたりの微笑ましいこと!でも絶対この幸せは続かないよ〜て予感がありありなのでもうその時点でせつない。ああ、かわいかった…かわいそうだった……かわいいそう………。


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05月11日(土)
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