ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『おのれナポレオン L'honneur de Napol醇Pon』
『おのれナポレオン L'honneur de Napol醇Pon』@東京芸術劇場 プレイハウス
わーい面白かったー。野田さんが他人に演出されてるのに好き勝手やってるように見えるとこがまたいい(笑)。そこらへん三谷さんのおしひき加減の妙でしょうか。試合巧者の役者陣が、丁寧に舞台を作り上げています。以下ネタバレあります。ミステリ仕立てなので未見の方はご注意を。
幽閉先のセントヘレナ島で、胃がんによって死んだとされるナポレオン・ボナパルト。彼の死に疑問を持った医学生ビクトールが、当時セントヘレナ島でナポレオンとともに過ごした人物たちのもとへ、話を聞きに訪れる。実際には舞台には登場しないビクトールに語りかけると言う形で、五人の証言者が“藪の中”よろしくセントヘレナ島で起こったことについて語る場面、それを再現する場面で構成されています。ナポレオンの死の真相とは?
面白いのは、こういうのって証言者によって対象者が全く違う顔を見せるものですが、ナポレオンに関してはそれがない。傲慢で、せっかちで、と言う性格が揺らがない揺らがない(笑)。彼はいろんなひとに妬まれ、財産を、命を狙われ、そして憎まれ愛される。ナポレオンの“違う顔”…いや、誰もがうっすら気付いてはいただろうが辿り着けなかったその顔をただひとり目にしていたのは浅利陽介くん演じるマルシャンだけ。ナポレオンの忠実な従者であり、唯一秘密を知っていて、ナポレオンの死に疑問を持つ者が現れる度に職務を果たす。それは一生の仕事であり、一生ナポレオンに縛られるということです。他の四人と同様”チェスの駒”だった彼は、唯一駒だということを自覚の上で動き、秘密を葬り続け、自らもその秘密を墓に持っていくのでしょう。
笑いも満載、謎解きにもハラハラ。ものっそいどんでん返しがあると言う訳ではありませんが(ナポレオンがそうした、と言うのは彼の人物像から納得、予想出来ることではある)、エピソードの組み込み方が上手く退屈させません。演出もバラエティに富んだもので、生演奏の劇伴音楽、映像使い、ステージを小さめに組んでコの字型に客席を配置し、観客を目撃者に見立てる仕掛けも成程と思わせるもの。ちょっと惜しいなと思ったのは、ハドソン・ロウのナポレオンに対する愛憎が台詞によって説明され過ぎなところ。「ボナパルト将軍は私が守る!」とうっかり言っちゃうところも、前振りが沢山あったのでうっかりって感じがしなかったのですね。これは他の登場人物たちにも感じられたことで、ビクトールに語りかけると言う設定だから尚更台詞で当時の心情を細やかなところ迄台詞で語ってしまうのです。ちょっと親切過ぎるかなあ。しかしこの劇場くらいのキャパだからこそなのかも知れませんね。とても楽しめました。
いやーそれにしても見たい野田さんが見られた。登場迄かなり引っ張るんですよね、それ迄散々他の登場人物が言う訳です、ナポレオンがどんなヤな人物だったかを(笑)。待たせて待たせて、やがてパタパタパタ…と子供が走るような足音が聴こえてくる。客席からクスクス笑い声が漏れてくる。客席通路に野田さんが現れる。パタパタパタパタパタパタ……皆待ってる、客席も舞台上の皆も。距離が長い。立ち止まることなく、待ってるひとたちを一瞥することもなく、あの甲高い声(と言うかいつもより意識的に高めにしてたような)で第一声、「潮が、満ちるー」。そのまま舞台奥にある設定の海辺へとパタパタパタ…と駆けていく。
……出オチか!
潮干狩りの習慣って外国にもあるのね…イタリアにもあさりはあるわね……なんだか言われる迄気付かなかったわ。そして今書いてて気付いたけどあさりって浅利くんに掛けてたのかしら。二重で笑うとこだったのかしら。
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04月24日(水)
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