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by kai
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■ザ・ファクトリー1『白鳥の歌』『楽屋』、『アベンジャーズ』最終日
ザ・ファクトリー1 さいたまゴールド・シアター『白鳥の歌』『楽屋』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール内特設劇場

さいたまゴールド・シアターとネクスト・シアターの新シリーズ“ザ・ファクトリー”。「彩の国さいたま芸術劇場の各ホールにとらわれず、自由な発想で劇場の中に新しい表現の場を見いだし、作品を発表する試み。劇場という創造の拠点ならではの、可能性に満ちた創作活動を目指す。」とのことです。

第一回はゴールドシアター。アントン・チェーホフ『白鳥の歌(カルカース) ひと幕の習作』約35分、清水邦夫『楽屋 ―流れ去るものはやがてなつかしき―』約80分の二本立て。演出は蜷川さんの演出助手を長く務めている井上尊晶さん。バックステージもの、役者とプロンプターの関係性、チェーホフ(『楽屋』の舞台は『かもめ』を上演している劇場の楽屋で、『三人姉妹』のモチーフも登場する)と言う共通点で選ばれたもののようですが、当日配布されたリーフレットに、清水さんが『楽屋』を書く動機となった要因のひとつとして『白鳥の歌』を挙げている非常に興味深いエッセイが転載されていました。井上さんは初日朝にこれを発見し「僕は、このエッセイを知らずに、この企画を演出したことに武者ぶるいした。この25年間、蜷川のそばにいて、ゆがんでしまった潜在意識がそうさせたのか―。」と記しています。

普段は開放されていない階段を降り、大ホールステージ上に作られている特設劇場へ。案内スタッフに見憶えのある顔がちらほら、ネクストシアターのメンバーです。“大ホール内特設劇場”は、ネクストシアターが拠点としている空間でもあります。入場するといきなり楽屋の風景。身支度をしているゴールドシアターの面々が目に入る。えっ、ここは演技エリア?客席はどこ?と一瞬狼狽。この辺り、蜷川さんが得意とする“現在から演劇への地続き”を踏襲していますが、今回のテーマにいい感じに重なっています。客席と『白鳥の歌』が演じられるエリアは、“楽屋”の隣にありました。かつてのベニサン・ピットを思い出す空間。暗転するとバミリのテープも見えないくらいの暗闇。こういうのって最近なかなかない。貴重な場所。

まずは男優のみの『白鳥の歌』。長年コンビを組んできた老優と老プロンプターが、公演がハネた真夜中の劇場で言葉を交わします。演じた役や、演じた劇場の思い出。幕開けは6人の老優が順番に登場し、同じ台詞を6回繰り返します。やがて老プロンプター5人が出てきて(こちらは一度にどどっと出てきた。衣裳もほぼお揃いで、そのヴィジュアルや醸し出す雰囲気がかわいらしくてウケていた)、老優に声を掛けます。本来はふたり芝居なのでしょうが、老優6人、老プロンプター5人、計11人で演じる構成です。全てが繰り返しではなく(そうしたら単純に上演時間も6倍になるし(笑)観客もツラいでんがな)長い台詞を分け合って発する場面もあります。台詞の言い回し、動き、そしてそれぞれ歳を経た身体全てが違う6人と5人。やがてふたり(11人)は抱き合って、劇場の奥…暗闇へと退場して行きます。出て行く先は劇場の外なのか、それだけではない“向こう側”なのか。

何故プロンプター役がひとり少ないのだろう、と思っていたのですが、七月、稽古半ばで劇団員の小林博さんが亡くなったとのこと。今回の公演にも出演する予定だったそうです。『聖地』を観たときに考えたことが現実となってきました。蜷川作品の常連だった大富士さんの訃報を聞いた二日後だったこともあり、いろいろ思うところがありました。

舞台と客席転換があるとのことで、一度ロビーに全員退場。客席の配置を換えるってどういうことかなーと思って再入場すると、果たして入場時に目にした楽屋を囲むように客席が移動されていました。実際に使っている(設定の)楽屋が舞台となる訳です。


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10月19日(金)
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