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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『暗いところからやってくる』『奈良美智:君や僕にちょっと似ている』
KAATキッズ・プログラム 2012 こどもとおとなのためのお芝居『暗いところからやってくる』@神奈川芸術劇場 中スタジオ

上記のとおりこどもも観られる作品です。こどもの頃怖かったものって何だろう、おばけ、宇宙人、それから?稽古と試演を公開し、こどもたちの意見も聞きつつ作り上げて行ったそうです。しみじみ面白かった…暗闇には何がいるのか、その気配は何なのか。おばけでもなく宇宙人でもない「怖いもの」。こどもにもおとなにも厳しいドッシリとした重いもの、を示しつつそれを感じられることが大事、と伝える心に残る舞台でした。

KAATの中スタジオは、そのフリースペースを活かして各所にかわいらしい仕掛けが施されていました。入口から劇場へ入る通路に布が張り巡らせてあり、ところどころに段ボール箱。古い家屋に引っ越して来た家族、と言う作品世界へ続くものになっています。布は静かにゆらゆらと揺れる。家屋にとりつけられたカーテンにも見える。ひとの出入りによって、どこかから入ってくる風によって、あるいはなにものかの力によって揺れるカーテン。そして演技スペースに入ると、物語の主人公・輝夫の部屋が現れます。客席はその部屋を三方から取り囲む形。残り一方向には、大きなカーテンが揺れていました。開演迄の時間、演技スペースには入ってもよかったらしく、こどもたちが輝夫のベッドや机の上、整理されていない段ボール箱の中を覗き込んでいました。この間あちこちから聴こえるのは、虫の声、遠くのこどもの遊ぶ声、「夕焼け小焼け」(確か)の町内アナウンス。陽光の照明も、だんだん夕方っぽくなってきます。早めに入場してよかったー。これは楽しめました。本編でも急にハンガーが落ちたり、段ボールが崩れたり。この辺り仕掛け(糸とか)全く見えなかったんだけどどうやってたんだろう?絶妙だったなー。

私が観た回はどちらかと言うと大きめ(笑)のこどもたちが多かったです。輝夫が13歳の設定だったのですが、その同級生くらいの子が主流だったかな。なのでこどもが騒いで芝居に影響が出る、と言ったことはありませんでした。皆静かにおとなしく、と言うよりくいいるように観ていた感じかな。コミカルな場面には笑い声も沢山。おばあちゃんが亡くなった古い家、湿度の変化によってときどき破裂音を立てる柱、あちこちにいる蜘蛛。ひとではない何かの気配が常に感じられ、輝夫はそれに恐怖を感じます。そこへ「暗闇に住む者」の新人と先輩、その監督がやってくる。彼らは人間観察を仕事としていて、出世して異動することになった先輩から新人への引き継ぎ作業のため、輝夫の家にしばらく滞在することにする。ところがこの新人がかなりのダメッ子ちゃんで……。

大窪人衛さん演じる輝夫と、浜田信也さん演じる新人の交流は『太陽』でのふたりを思い出させるものでした。今回イキウメの劇団員さんの魅力が堪能出来たなー。大窪くんの童顔と高い声は中学生役を演じても違和感がなく、浜田さんはグッドルッキングなのにどうしてこうアホの子の役がハマるのか(笑)。伊勢佳世さん演じる輝夫の姉(大学生)と輝夫のきょうだいげんかの様子も、細やかな描写でリアル。様子がおかしい弟を叱りつけつつ、心配しているおねえさん。

終盤かなりゾッとする場面がありました。所謂ホラー映画の怖さではなく、オカルトのそれとも違う。人間の在りようについての事実が提示されるだけのことなのですが、それが怖い。それこそが怖い。そしてその怖さは悲しみをも伴ったもので、克服するものではないのです。受け入れるしかない怖さは暗いところからやってくる。おばあちゃんへの優しい思いと家族を守る勇気を持った輝夫はとてもいい子で、この子がこの心のまま大人になればいいなあと思いつつ、それでは自分はどうだろう、と薄汚れた大人は思うのです(苦笑)。見習いたい……。そして「暗闇に住む者」たちへ思いを馳せる。彼らはおばけかも知れない、宇宙人かも知れない。あるいは死者かも知れない。彼らの存在を感じ乍ら生きること、と言うのは失くしたくない感覚でもあります。こどもにはトラウマになるんでないのと言う場面もありましたが、こういう怖さを心身に刻んでおくのってだいじなことなんじゃないかな、と思いました。


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08月04日(土)
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