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by kai
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■『シンベリン』
『シンベリン』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

彩の国シェイクスピア・シリーズ第25弾。これで全てのロマンス劇は上演し終えたことになるそうです。残るは悲劇、喜劇、歴史劇と重厚なものばかりになりそうなので、こういったハラハラしたり笑ったり、そして最後は笑顔で大団円な作品は最後なのかも。身が引き締まる思いです。しかしロマンス劇はいい…とても気持ちよく劇場をあとにすることが出来ます。お芝居っていいなあとじんわり心が温かくなる感じ。ホンのつくりとしては矛盾点もあり、風呂敷のたたみっぷりもすごいのですが(笑・神さまの万能っぷりって便利だよねー)、「芝居だから!」こその嘘や荒唐無稽を楽しめる作品です。休憩込みで3時間40分、ブリテンにちなんでか物販には紅茶もありました(笑)。阿部寛さんはブリテン紳士の役ですが、古代ローマも深く関わっているストーリーのためか『テルマエ・ロマエ』の関連本も売られていてウケた。

開演より少し早めに席に着いておくといいかも。蜷川さんの芝居では毎回と言っていい程そうですけどね。以下ネタバレあります。

舞台は楽屋の風景。出演者の名前が張られた鏡台がズラリと並んでいます。鏡台の周りに写真や切り抜きが張られていたり、メイク道具の並べ方にも、各人の趣味や特徴が出ています。そうそう、観たひとに訊きたいのけど、勝村政信さんの鏡台の横に何故か大石継太さんの若い頃の写真を拡大コピーしたものが張られていたんですよね……あれ、何。勝村さん演じるクロートンがとっちゃん坊やのバカ息子で、髪型(ウィッグ)がその大石さんの写真に似ていたので参考にしたのかなと考えてはみたが、勝村さんのことなのであんまり深く考えなくてもいいのか?(笑)しかし気になる。ネクストシアターの川口覚さん等、若手が先に出て来て談笑しており、開演が近付くにつれ、浴衣やガウン姿の出演者が次々と現れます。そして開演、出演者たちが一列になり、しんと静まった客席に対峙。黒子たちが彼らの上着を一気に取り払い、役者たちが舞台装束の姿になり場の空気がガラリと変わる。客席からは「おお」と言う声と拍手、蜷川さんお得意の二重構造で幕開けです。

この作品はこの後5月にロンドンに持っていくので(オリンピック開催を祝う『ロンドン 2012 フェスティヴァル』内の「ワールド・シェイクスピア・フェスティヴァル」で上演されるとのこと)、それを意識したと思われる東洋色を押し出した音楽や美術を起用しています。屏風状のスライドドアによる転換、墨絵の背景画。歌舞伎の拍子木打ち、ツケ打ち的な転換音と、胡弓、琵琶等を取り入れた音楽。これらがしっくりきています。そして和+モンゴリアンの衣裳。この辺りは、今作同様本国で上演された『コリオレイナス』に連なるプランですね。

男たちが自分の国の女たちを自慢しあうシーンの背景画は『源氏物語』の「雨夜の品定め」、部屋に置かれた美術品として巨大な『ルーパロマーナ(ローマの牝狼)』像。こうやって言葉で説明するとカオスですが、実際目にしたそれは洗練されており、品のいいものです。オオカミ像の台座に横たわり、長煙管で紫煙をくゆらせ登場した窪塚洋介さん演じるヤーキモーは絵になった。これには不思議な説得力がありました。

窪塚さんはローマ=イタリアの伊達男としては線が細いのは否めないのですが、仕草や立ち居振る舞いに華があり、妖艶ですらあるヤーキモー像でした。言葉と知恵でひとを誘惑し、欺く。新しい魅力を感じました。蜷川さんとの舞台は三度目ですよね。『血は立ったまま眠っている』『血の婚礼』のように従来の窪塚さんのイメージを活かした役柄もよかったのですが、今回はシェイクスピアと言うこともありどうなるんだろう…と不安でもあったのです。見事に裏切られた。台詞回しも丁寧で、無理に早口にしようとはせず、しっかり言葉の意味を伝える努力の跡が感じられました。いつか『オセロー』のイアーゴを窪塚さんで観てみたいなとも思いました。


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04月07日(土)
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