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by kai
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■『パーマ屋スミレ』
『パーマ屋スミレ』@新国立劇場 小劇場

ズッシリよい舞台でした。鄭義信さんが新国立劇場に書き下ろした、在日コリアン三部作と言っていいかな。それの三作目。一作目『たとえば野に咲く花のように』、二作目『焼肉ドラゴン』を逃したのが悔やまれます。『焼肉ドラゴン』は再演迄しているので、再々演は当分ないかしら……。

時系列では一作目と二作目の間にあたる今作『パーマ屋スミレ』。1960年代半ば、九州有明海を一望出来る、「アリラン峠」と呼ばれる炭鉱の街のお話です。故郷を出て行った、現代の大吉(役名表記は大人になった大吉と言う意味でしょう、「大大吉」となっています)が語り部となり当時を振り返る。大大吉は思い出の風景のなかに入り込み、屋根の上から、車の陰から、窓の傍から、街のできごとを眺めます。ときには懐かしむ笑顔で、ときには苦しく悲しい顔で。そこには若き日の自分(大吉)や、大吉の家族、親戚、街のひとびとが当時の姿のまま暮らしています。

大吉は、大大吉が説明するように「太めの、ちょっとオカマっぽいところがある、ファッションデザイナーを夢見る青年」として現れます。大大吉の風貌から、大吉がデザイナーの夢を諦めたことは容易に想像がつきます。彼に何が起こったのだろう、彼はどういうふうに故郷をあとにしたのだろう。故郷では何が起こった?軸となるのは大吉の母親と妹たち、そしてその家族。大吉の叔母となる須美が営む理容店が舞台です。その時代と炭鉱住宅でのくらしを反映させた装置、小道具のひとつひとつが素晴らしい。ときどきうざったくすら感じられる玉暖簾、理容院の道具類、マッコリを仕込んだ甕、魚を焼く七輪、水を汲む井戸、餅つきの道具。具象で細部迄作り込まれています。そういえばあの三輪トラック(かわいい)どうやって動かしてたんだろう?エンジン音は効果音だったので中にペダルとかついてたのかな。

登場人物の口調は怒鳴りがデフォルト。声が割れているひとも多い。炭鉱に関する専門用語が多く、朝鮮語が混じるところもあり、しかも北九州辺りの方言がマシンガンのように繰り出されるので、序盤はうへえ何言ってっかわかんねー!とあわあわ。いやーわたくし九州出身者ですけども、それでも聴き取るのに難儀しました。そんな彼らの出自を大大吉がちょー早口で説明。炭坑作業のため祖国から労働者として強制的に連れて来られた朝鮮人、自ら志願してやって来た朝鮮人、炭坑労働者の日本人、彼らと家族を持った朝鮮人や日本人たちです。しかもなんかひとによって違う名前で呼んでるような…特に男性の登場人物……誰がなんて名前だー!とまたあわあわ。休憩時パンフを開くと、須美の夫である成勲はキャスト表には「ソンフン」とルビが振ってある。成勲の弟は英勲で「ヨンフン」。成勲は「なるさん」と呼ばれてなかったっけか…日本語と朝鮮語の発音が混在していたんですね。これは混乱するわー。このあたり、土地柄と人柄を強調する狙いだと思います。観客をストーリーに引きずり込むパワーはすごいものがありました、あっと言う間に術中にはまった。

故郷を捨てたとも言える語り部が登場する構成は『ガラスの動物園』を、三姉妹が見知らぬ祖国への思いを胸に今の土地で生きていく姿は『三人姉妹』を想起させますが、舞台に濃厚に存在するのは、あの時代の炭鉱の街――筑豊・三池――の空気です。

須美には「ポマードの匂いがしない、理容院ではない」美容院、パーマ屋を開くと言う夢があります。店名も「パーマ屋スミレ」と決めている。成勲はアロハとパナマ帽が似合う遊び人な風貌で、先山(炭坑でのリーダー的存在の熟練者)として誇りを持っている。須美の妹晴美と夫昌平は、炭坑仕事で8時間会えないのすら寂しがるラブラブっぷり(ここの描写『祝女』の「ドラマチックカップル」を思い出した・笑)。須美の姉初美は大吉の父親と別れ、炭鉱の組合を取り仕切る恋人と暮らしている。苦労は多いけれど明るく暮らす彼らを、ひとつの炭坑事故が徐々に押しつぶしていきます。


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03月18日(日)
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