ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『不思議な卵』『奇ッ怪 其ノ弐』
海流座『不思議な卵』@紀伊國屋サザンシアター

お誘い頂き行ってきました、米倉斉加年さんの劇団。米倉さんと言えば、角川文庫『ドグラ・マグラ』『少女地獄』等の夢野久作作品の挿画家としてのイメージが強い。何せ小学生のときに見ましたから、あの衝撃は忘れられません。と言う訳で、卵が先か鶏が先かではありませんが、個人的には米倉さんと言うと画家としてのイメージが強く、舞台作品を観るのは初めてでした。

実際に観る米倉さんはとてもとても物腰柔らかい穏やかな印象。しかし、かつての美しい自然を持った村を知っている150歳は生きているであろう老人、と言うある種異界の住人のような役柄で、こわいと言えばこわいのです。畏れみたいなものを感じました。なんだか動物堂を経営してた頃の飴屋さんが歳とったらこうなりそう、と思わせられる風貌になってた(笑)。

トルストイ『イワンのばか』から構成され、人間の手に負えないものを扱うことについて、自然の恩恵への感謝を忘れてはならない、と言ったテーマを織り込んだ物語。親子で観られるようにとの配慮(何せマチネが11時開演)で、わかりやすい言葉を使い、歌や演奏を交えたあたたかい舞台でした。

JOHNSONS MOTOR CARのブライアンがブラコ名義(かわいい)で出演しており、リコーダーやパーカッションを演奏。格好よかったYo!

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現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』@世田谷パブリックシアター

『奇ッ怪』が帰ってきたよ!劇場はトラムからSePTヘ。まんまと間違えてトラムに行きましたよ……。

一昨年上演された『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜』が夢幻能の形式をとっている(前川さんは無意識だったそうですが)ことから、今回の新作はSePTのシリーズ現代能楽集としての上演となりました。「このあたりの者です」と言う台詞もあり笑いもあり、狂言のエッセンスも。構成の妙も堪能出来ます。そこから浮かび上がるのは3.11の色濃い影。現在と普遍へ果敢に挑んだものになっていました。以下ネタバレあります。

登場人物がその土地にまつわる悲劇を伝承として語る。実は話し手はその悲劇の当事者であり死者であり、やがて成仏していく――これが夢幻能。とある事故(自然災害によるものか、人為的なものかは明らかにされない)が原因で壊滅した故郷に戻ってきた青年。彼は土地の者で彼の父親とも親しかったと言う人物や、土地の調査のためにやってきたと言う人物たちから“奇ッ怪”な出来事を聞いていきます。これが劇中劇で演じられていく。

死者であろうひとたちがかつての出来事を語っている、と言うのはある程度序盤から了解出来る。それに違和感がない。「ある程度」が「確信」に変わるきっかけがあるのですが、それもここぞ、と言うところで投げ入れられるので、判っていた筈なのに鳥肌がたつ。恐怖からではなく、パズルのピースがはまった!と言った鳥肌です。印象的なシーンとしては、入院していた奥さんが帰宅したが、実はそれは幽霊だったと言う場面。病院から電話がかかってきて、家にいるのは実体ではないと夫が気付いた瞬間に妻が“消える”のですが、このシーンの描写がすごかった。演じる岩本幸子さんの表情、それを浮かび上がらせる照明、徐々に大きくなるノイズ。ゾーッ!としたのですが、そこから浮かんだ感情はひたすら悲しみだったのです。これにはハッとさせられたな…原田保さんの白い照明、すごく好き。

と言うように、恐怖の質も独特。やはりこちらも恐れと言うより畏れ、なのです。彼らが未来への希望を語れば語る程、その「これから」はないと気付いている観客の心には悲しみが降り積もっていく。彼らが幸せそうに話す様子を、ただただ見ているしかない。どうすることも出来ない。この辺りの、こわさを悲劇として見せる描写がとても丁寧でした。


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08月27日(土)
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