ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『死ぬまでの短い時間』『わが闇』
ここでポイントになるのは次女の亭主。敢えて書かないと語り手は言うが、「笑っていてほしい」との父親の遺言を読んだ次女は、離婚するだろうと思わせられたし、離婚してほしいとも思った。男のダメな嫌な部分を凝縮したような(そしてこういう人物はデフォルメでなく実在する)寅夫だったが、汚い部分も含めて決して共感出来ない人物ではないのだ。時々正論も言う。しかしとてもやっかいなことだが、次女はこの亭主を断ち切らねばならないとも思わせられた。彼はここの家族でいてはいけない。そういう意味では、書生のままずっと家を見てきた“東大のジョー・ストラマー”三好は、どんな他人よりも柏木家の家族だった。
これだけストーリーに入り込めたのも、役者陣が素晴らしかったから。全てを黙って背負おうとする長女役の犬山さんは、落ち着きと激情を爆発させるギャップを3時間と言う時間をかけてじっくり魅せてくれた。次女役の峯村さんは、いろんなことを呑み込んで優しく生きる女性の強さを魅せてくれた。奔放と強さが魅力の三女役の坂井さんは、何度も躓き立ち止まる家族を鼓舞する光(そして勿論影も)を持っていた。松永さん、長田さんも素晴らしい!そしてナイロンに出演する女優は皆声が魅力的。いやもう全くつっこみどころがありません。それはシリアスもコメディも何もかも。
ストーリーのアホな部分を一身に背負った大倉くんは流石だ…最高だ……そしてこのストーリーのいや〜な部分を殆ど全部背負ったみのすけさんも。多分観客皆「こいつ酷い目に遭わないかな、死ねばいいのに」と一瞬でも思ったと思う。それは同時に、観客に自分の嫌な部分を自覚させることでもある。観客全員を敵にまわすタフな、そして重要な役割です。それをしっかり演じてる。不器用な編集者をひたすら切実に演じた長谷川さん、柏木家に一生を捧げた三好役の三宅さん、いちばん正しいことを言っているが裏ではかなりダメな(しかし映画のことを本当に愛しているのだ。そういう人物は総じてろくでなしだ。同時に誠実でもある)男を演じた岡田さんも素晴らしかった。そして父役、廣川さん。倒れてからは姿を見せることがなくなり、出番としては少ないものですが、存在感は圧倒的でした。廣川さんの声も魅力的だよね。それが最後の遺言でとても効いていた。いやはや素晴らしいばっかりです。
演出も冴えまくり。台詞の間、タイミングもかなり細かく指定していると思う。これは初期にかなりトレーニングされたと峯村さんが言っていたので、これこそが劇団の阿吽の呼吸なんでしょう、この独特なリズムは他では絶対に観られない。そしてこのリズムが笑いのツボを徹底的に圧す、同時に痛みを伝える。映像の使い方は『消失』からガラッと変わった憶えがあるが、今回は映像を照明効果としても使う巧みさが見事でした。何度も鳥肌がたった。家全体が歪む装置(軋み音もいい効果になっていた)も、プロセニアムの枠組みで全体を観てこその効果。映像でトリミングやズームアップをしては決して伝わらない。「無駄」や「寄り道」を、全力で観客に届けようとしている。素通りすることは許さないとでも言うように。ナイロンにしか出来ない、ナイロン以外は有り得ない。
もともとナイロンは、劇団と言うシステムに不具合を感じていたケラさんが健康を解散して始めたプロデュースユニットだ。しかし今ではケラさん自身ナイロンのことを「劇団」と言っている。劇団員は家族のようなものだとも。3年振りのナイロンの新作は、家族と言う枠組みの強さと柔軟さ、ひとが生きることを何が何でも肯定する優しさに満ちていた。
12月15日(土)
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