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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『à la carte 35th Anniversary 僕のフレンチ — special menu —』
しかしその思いは分かっているとでもいうように、高泉さんは「青山のあとは移動レストランとして池袋に行ったり、横浜に行ったり、そして実際にレストランである渋谷でやったりしましたが……」今回は久しぶりの劇場ということで「かつて使っていた椅子やテーブル、あとこれ!(とバックドロップを見上げる)見つけて持ってきたんです!」と、今回のステージを紹介してくれたのです。これにはグッときた。終わりの方では「レストランだと(演技)スペースがあまりないので、菊之丞さんとはもう出来ないかなと思ったんです。でも菊之丞さんは『これくらいのスペース(一畳分くらい)があれば、僕、踊れます。また誘ってください』といってくれたんです」と感極まっておられました。

という訳で本日のゲストは尾上菊之丞さん。『NINAGAWA十二夜』や『阿弖流為』、『ワンピース』『オグリ』と振付師としてのお仕事は拝見していたのですが、実際のお姿を観るのは初めて。いやはやすごい出会いになりました。

ゲストが役者だろうが音楽家だろうが参加させられる(笑)恒例お芝居のパートは、メニュー+ワインリストがカンペ。ここいつもリハどれくらいやってるんだろうと思う。観客からするとしどろもどろになってる(あるいはそう演じている)ゲストを観るのが楽しみでもあります。当て書きというかアドリブであろう、七味のくだりはあちこちからクスクスと笑い声。高泉さん演じる麻丘めぐみ(この名前・笑)に「めんどくさそう…」といわれて大ウケ。お芝居も達者〜(何様)なんて感心していたのですが……。各々の本領を発揮するショウタイムで衝撃がやってきました。メニューを模した進行表には“♪Merry Christmas, Mr. Lawrence/尾上菊之丞”とある。唄うの? でもこの曲、唄うなら「Forbidden Colours」ってタイトルになるよなあ、と思っていたら。

お芝居パートで困ったような表情を浮かべていた、物静かなスーツ姿の男性は何処へやら。紋付袴で登場し、素踊りが始まりました。摺り足の音、扇を開くパン! という響き。流し目、伏し目、遠くを見やる目。息を呑む気迫と美しさでした。

このプログラムは昨年の『ア・ラ・カルト』でも披露されたそうなのですが、教授が亡くなってから初めて、余所でしかもライヴでこの曲を聴いた(こ、心の準備が)こともあり、ドバーと泣いてしまった。アレンジも演奏も素晴らしかった。中西さんとブレントが奏でる弦のトレモロが、竹中さんのエレクトリックギターとともに電子音のような音響を生み出す。佐藤さんのアコースティックな鍵盤がその場の空気を揺らす。音が空気を震わせる様が、目に見えるようだった。音を見る、姿を聴く。時間も場所も別次元に連れて行ってもらったかのような数分間。

しかしそれだけでは終わらなかった。そりゃそうか舞踊家だもの、舞でこそ魅せるのだなと思っていたら、その後の歌に度肝を抜かれる。高泉さんとのデュエット「Winter Wonderland」、めっっっっっちゃ巧い。ミュージカル俳優ですか? というくらいの声量、ピッチ、表現力。なんなのーーーーー!!! ……いやはや恐れ入りました。しかしその後高泉さんに「北別府(学)に似てますよね」といわれていて大笑いする。何をいいだす……高泉さん、ファンだったんですって。

お父さんに口の中を見せる少女やマダムジュジュはいなくなり、高橋が典子さんと来店することはなくなった。しかしここには独立した大人の女性がいて、宇野千代子がいて、高橋はレストラン存続のために奮闘している。高泉さんは唄い、踊り、笑って泣く。『ア・ラ・カルト』には人生の甘いも苦いもある。観続けることが出来て幸せだと思う。パンフレットによると、「35周年で『ア・ラ・カルト』が終わってもいいかな、って」「このカンパニーで、違うお話やってみたらどうだろう、なんて思いも出てきてね」とのこと。劇場、出演者、タイトル、上演方式……変わらず、変わり続けるこのシリーズの次を、楽しみにしています。

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・高泉淳子に聞く〜「クリスマス時期に気軽に見られる芝居があったらいいな」で始まり今年で35年目の『ア・ラ・カルト』を『僕のフレンチ』として上演┃SPICE

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12月21日(木)
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