ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■倉田翠 × 飴屋法水『終着、東京 三重県足立区甲府住吉メゾン・ド・メルシー徒歩0分、入浴中』
さまざまな引用がある。人生を振り返っているようでもある。これではまるで、終わりの時間が見えているようではないか。身体に負荷をかけ続ける飴屋さんの体調のことは気に掛かっているが、それが飴屋さんの作品なのだ。本人にとって、こうするしかない表現方法だ。あらゆる安全確認とケアをして上演は行われている。しかし、思い通りに身体がついていくかは判らない。

そんな思いに捉われていると、倉田さんに肩を掴まれる。薬物依存症リハビリ施設のメンバーは倉田さんの弟となり、東九条の住人たちとなる。繰り返し流れる「君は天然色」は死者を思い書かれた歌だ。倉田さんは思い出を纏い、剥ぎ、また纏う。稽古着、喪服、曰くつきのニット。服だけでなく自らの皮膚をも剥ぐようなその激しさ、確かなダンスのスキルをも破壊しかねないエネルギー。その負荷もまた、自身を傷つけかねない。

そんなふたりの前で、くるみさんはまっすぐ立っている。ふたりのやることをしかと見、話すことをしかと聞いている。事前にアナウンスされていなかった出演者、ミントくん(岩瀬圭司)をくるみさんがインタヴューする。お父さん、お母さんとともに体験したことを語る。倉田さんと、京都の友達のことを語る。まっすぐな声で目にした差別、自分の将来を語る。彼女は境界を越える可能性を持っている。

「家」の美術がとてもよかった。銭湯跡のBUoYで入浴ならぬ水責めに遭う家。荒波になすすべもない家。音響設計も、もともと演劇をやる場としてつくられていないスペースを見事に演劇空間に変えていた。

シリアスでヘヴィーな日々に、joyがあるのも事実。飴屋さんとくるみさん、そしてミントくんのパレードの愛らしいこと。葬式あるあるの話のところではちょっと笑ってしまったなー。確かに喪主が飴屋さんだと葬儀屋さんも話しづらかろう……。オズの魔法使いは彼らに問いかける。ライオンは、ブリキの木こりは自らに問いかける。ヘヴィーな日常にときどき訪れる、ハッピーなひととき。人生はその繰り返し。倉田さんは「明日も同じことをやる」という。場面は冒頭に戻る。イヤホンを耳に入れ、ステップを踏み始める。だが、そのイヤホンにスマホは繋がっていない。そこにどんな音楽が流れているのか、彼女だけが知っている。

観客は彼女だけの音楽を想像し、自分だけの音楽を想像する。そうすることで、私たちは友達になれるだろうか。

「有難うございました」という言葉は、共演者にも、スタッフにも、そして観客にも贈られる。成程、死は身体を使い切ることだ。以前飴屋さんは「自殺はしない」といっていたことがあるが、それは身体を使い切るつもりでいるからだ。冒頭、飴屋さんはちいさな声で「健康がいちばん」といっていた。このひとの作品を見続けたい。それは恐らく「死」をも見届けることになる。そのとき、どう誠実な観客でいられるかを考えている。

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・アーティスト・インタビュー:“誰とつくるか” 倉田翠が問いかける新領域┃Performing Arts Network Japan
「現実に起こった本当にしんどいこと、涙が出ちゃうようなことに舞台は勝てないことをわかった上で、私も含めた彼らが“生きている”現実とフィクションの距離をもうちょっと近づけたいと思いました。」

02月26日(土)
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