ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『暗殺』『男と女』
夏、門人くんとアキコさんがファミレスで相談してる。12月にサラヴァ東京おさえちゃった、芝居をやるぞ、二人芝居。予算ない、チラシもつくれないくらい余裕ない、作家や演出家は呼べない、話からふたりでつくるしかない。さて、どんなものにしよう? ミーティングのやりとりからふたりがやりたいもの、やりたいこと、やれること、が徐々に浮かびあがる。再現という形でそのアイディアが演じられる。
客席にはいかにも関係者といった風情、スーツ姿の年配のひとがぼちぼちいた。公演の企画意図もちらほら見えてくる。どうやらこれはふたりのプレゼンの場でもあるらしい。プロフィールに書いてある特技は必ず盛りこもう、いざその特技を買われてオファーが来たとき、錆び付いていないように特技は常に磨いていないと。アキコさんの特技はフェンシング。そして何げにピアノも上手い。門人くんの特技はバレエと中学生くらいのギターとそれなりの歌。男と女ふたりの芝居だし、恋愛ものにしようか。昨今ヒットしてる映画の要素も取り入れよう。うん、これは成り立つ。理屈も通る……通る? 通るか? かくしてなんとも奇妙な「茶番」が展開されていく。
しかしこの「茶番」を通し、ふたりの魅力が見えてくる。特技を披露したときに起こる「ほおお」といった声と拍手とは違う、思わず身を乗り出してしまいそうになる、あるいは思わずのけぞってしまうほど引き込まれてしまう場面。それはブランド白米の特徴を滑舌よく情熱的に語る門人くんであり、最も売れていない時代の思い出話をする門人くんであり、それを笑って励まし的確な叱咤激励を投げるアキコさんの姿だ。
すぐにGoogle先生に疑問を投げるふたり、webは便利だ。「茶番」という言葉の由来、意味を知って思わず考え込む。将来への不安、焦り、この仕事を続けていくうえでの覚悟のようなもの。売れたい、仕事したい、芝居がしたい。本音と理想を晒け出し、舞台に載せるふたりの役者。その心意気、しかと感じ入りました。
「これが観劇おさめになる方もいらっしゃると思うと…それが茶番とか、申し訳ないっ」なんて終演後のあいさつで門人くん言ってましたがいやいや、いい芝居おさめになりました。自分はやっぱり小劇場の対話劇が好きなんだな。それが「金にならない」のは知ってる。それだけでは役者が食べていけないのも知ってる。公演を打つ方もそれはわかってる。現実は厳しい。それでも、次に繋げるためだけの公演なんてものはなくて、今ここでしかやれない芝居というものがあり、心に灯りつづけるものになったりするのだ。
12月28日(水)
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