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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■高橋徹也 20th ANNIVERSARY『夜に生きるもの 2016』
……ここ迄前置きですよ。長いわ! いつもか! やっと当日きた! 平日吉祥寺19時開演はハードルが高く、19時10分頃ようやく会場へ辿り着く。なんとまだ開演前ぽい、演奏の音が聴こえない。やったあああとドリンクオーダーもうわのそらで入場したと同時に、あの「ナイトクラブ」のホーンが聴こえてきた。実はこれ、opのSEだったのだが、生音との区別がつかない程舞い上がってしまった。ええっ一曲目「ナイトクラブ」?! ここで一階に降りてたら(SPCは二階が受付)その間観逃す聴き逃す、そーれーはーいやー! と二階で観ることにする。慌てて駆け込みステージに目をやる、メンバーが出て来たところだけどブラスセクションがいない。あれ? あれ? 高井さんは? ここでやっとSEだと気付く。やーこれを出囃子に持ってくるとは……しょっぱなからもってかれた。そしてカウント、一曲目は「真っ赤な車」でした。次第に落ちつき、周囲が見えてくる。おお、一階のフロアスタンディングじゃないの、盛況! SPCでスタンディングって初めて見た。
四曲目迄はアルバムの曲順通り、当然二曲目は「ナイトクラブ」。なんでもホーンを加えてのライヴ演奏は初めてだったとのこと。この、ホーンセクションが加わった編成というのは今回の大きな特質で、「大統領夫人と棺」や「夜明けのフリーウェイ」に新たに施されたホーンアレンジには大きな驚嘆と感嘆があった。これらのアレンジはsugarbeansこと佐藤友亮によるもの。ストリングスライヴのアレンジといい、このひとが高橋さんと出会ったことはとても大きい。菊地さんによる「ナイトクラブ」、佐藤さんによる「大統領夫人と棺」「夜明けのフリーウェイ」。不思議と整合性がある。複雑なリズム、屈折したハーモニー。不穏さを含み、背徳的な快感がある。
こうなると村上良成による「新しい世界」のホーンアレンジが異彩を放ってくるのだが、そもそもこの、ド直球に多幸感溢れる楽曲が『夜に生きるもの』に収められていることこそ高橋徹也というアーティストの真骨頂なのかなとも思う。「女ごころ」「夕食の後」の情景描写、この子はホントに車が好きねえと思わず笑みが漏れる「車」歌の数々、そうしていると死の淵に立っているような男性が現れ、老人が犬をつれ散歩する。自分の知らないところで、同じときを生きている誰かが生活している地球の不思議、それらを上空から俯瞰する視点。生きづらさを抱えているひとのエネルギーが逆噴射を起こした末に発見したような、狂気じみた多幸感とささやかな安らぎ。その詩世界、ストーリーテラーたる歌声。夜を生きるクリーチャーだ。
『夜に生きるもの』からやらなかったのは「いつだってさよなら」のみ。新旧代表曲を織り交ぜライヴは進む。ゴリゴリのポピュラーミュージックにゴリゴリのアレンジを加え、ゴリゴリ手練なプレイヤーが自在に演奏する。あまりの凄まじさに笑いが漏れる。「大統領夫人と棺」〜「夜明けのフリーウェイ」の流れは所謂「ゾーンに入った」状態。これ高橋さんのライヴでしょっちゅう言ってて、ゾーンに入るなんてそうそうないだろと言われそうだが実際入るんだよ……そうとしか言いようがない。そこへ音響の妙(「大統領夫人と棺」のドラムがドンカマみたいな底から響く音になってた、ギターが一本なのにディレイでなく複数聴こえる←ここは佐藤さんがサンプリング鳴らしてたのかな、等)が加わるのだからたまらない。音楽という名の怪物が姿を現したと感じるほどの場面が続く。演奏を繰り返し場数を踏んできた、エンジンのデカいバンドの為せる業だ。鹿島“KID”達也があれだけ暴走出来る(いーやーすごかった。恐ろしい。思わず御大! と心のなかで手を合わせた)のも、プレイヤーが“会話”出来ているからだろう。『The Endless Summer』から参加の宮下さんの功績も大きい。最初からペダルスティールが入っていたかのように、楽曲の肌ざわりを変えている。
そこへ高橋さんの唯一無二の声が乗る。まさに水を得た魚。『夜に生きるもの』というアルバムの地力、高橋さんの地力を思い知る夜になった。
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09月23日(金)
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