ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『客 손님』
この手のつれまわし演劇(なんだっけホントはサイトスペシフィックアートって言うんですっけ)は、ひとを信じることが基盤になるので、そこを越えられないと恐怖や猜疑心しか残らなかったりする。だいたい怖いじゃないですか、知らないとこ行って知らないひとと会ってって。しかも一対一、密室だったりすると。『客』にも『From the sea』にも、相手や設定を信じるための入口や装置があった。しかしそこから没入出来るか、というのはまた別の話。今回は時間が短いということもあり、ナレーションやこどもの問いかけにじっくり応える余裕がなかったのは確か。
それでも最後、こどもが消え、障子が開き、視界に庭が拡がった瞬間の気持ちは忘れがたい。大木とそれに片方だけ繋がれた古びたブランコ。あのブランコで遊んでいただろうこどもはどこに行ったのだろう、この家屋の住人はどこにいったのだろう。上質な短編小説を読んだような余韻は他ではなかなか得られないものだった。
さて、ここからが面白い体験。恐らく他のひとには起こらなかったことだ。強調しておきますが、これクレームじゃないですからね! ある意味ラッキーだと思いましたし、それを楽しむことも出来ました。
和室と庭の間にある廊下には、かわいらしいバッグが置いてあった。近付いてみると、チラシが二枚と、あいさつが書かれたメモもある。あ、終演なんですね。えーと、どうやって帰ればいいのかな? 濡れ縁には靴も並べておいてある。このバッグ…おみやげかな?(ちがう)さっきのこども、確かちいさなバッグ肩にかけてたよな。それかな?(ここで相手をよく見ていたつもりでも実際には細部を見落としているなあと気付く)靴もあの子の……いやいや、屋内だったから靴下のままじゃなかったか。この靴を履いて庭に出ろってことか? しかし私の足のサイズは24.5cm、この靴絶対入らない(目視では22cmくらい)……数分廊下と和室をうろうろし、どうにもこうにも訳がわからなくなったので受付に戻る。既に次のお客さんが到着していたようで、スタッフさんが慌ててやってくる。バッグと靴を見せ「これ、どうすればいいんですか?」と訊くと、控室から私の靴とバッグを出してきてくれた。あっ成程、ホントはあそこに自分の荷物と靴が置いてあって、そのまま帰る設定だったのか! 作品のバグを見付けたような気持ちになった。
上演時間は20分、開演は30分毎となっていたので観客同士が鉢合わせすることはない。しかし好評につき追加公演も出たそうなので、オペレーションとしてはギリギリだったのだろう。遅刻する客がいただろうし、似顔絵を描く時間が長くなってしまうひともいたかもしれないし、部屋間をゆっくり移動するひともいただろう。ここで急かしてしまっては、作品として成り立たない。そしてその性質上、参加した誰ひとりとして「私は正しく時間を守り、完璧に動きました」とは言い切れない。正解はないのだ。だからこそ、公演が最後の一回迄無事に終えられるよう、作品に参加し協力する意識が必要だ。そんなこと知ったこっちゃないというひともいるだろうが、本来演劇というは、演者と観客の協力によって成立するものではないか。
誰もが目にすることの出来るwebでの公演告知は、悪意ある観客(もはや観客とも呼べない者)が紛れ込む可能性もある。マナーは性善説、ルールは性悪説からと言われるように、情報の拡散速度はマナーが浸透する迄の時間をやすやすと追い越してしまう。よってルールを設けることになる。何故そうするのか、と考えないで済むようになってしまう。
念のため書いておきますが、見知らぬどなたかのバッグは開けませんでしたし靴も履きませんでしたよ。これはひととしてのマナーだなー。……とはいうものの、帰り道自分のバッグから何か紛失してないか確認してしまった。勿論なにごともなかったです。そうなんだよ、私はこの作品を上演したひとたちと参加したひとたち、皆を信じたい。このご時世甘すぎる、バカだと言われようと。
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01月30日(土)
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