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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『アルトナの幽閉者』『ASYMMETRIA』
骨伝導マイクを装着した山川さんがステージに上がり、口上で開演。「こんにちは、やまかわふゆきで」「す」、と同時に頭を一撃。増幅された衝撃音がスピーカーから大音響で鳴る。頭を一度叩くと300万個の脳細胞が失われます。これで300万個、これで600万個……頭をリズミカルに叩いていく。背後のバーカウンターのワインボトルを掴み、ひとの脳みそはだいたいこれと同じくらいの重さですと言い、今度はそのボトルで頭を打つ。ゴツゴツと音が響く。側頭部や後頭部を叩いているのに、みるみる額が紅くなっていく。総数から計算すると、200回も叩けば僕の脳細胞は全て壊れ、廃人になってしまう訳ですが……しかし、これは都市伝説です。脳細胞は日々新しく作られていくので、とニコリ。三公演目なので、たんこぶが沢山出来てしまって痛いのですが…の言葉で若干緊張がほぐれる。
音が増幅されているとは言え、実際かなり強く頭を殴っている。山川さんの身体を使ったパフォーマンスはいつもある種の緊張感がある。それは飴屋さんの作品とも共通する。ちょっとした事故で命を落とすのではないかと言う緊張感。勿論ケアはしているし、どの程度迄追求したらどうなる、と言うしっかりしたフィードバックを経ているものなのだが、実際に自らの身体を攻撃するそれは呑気に観られるものではない。そのギリギリのラインを歩くさまを見ると言う行為は、スリルを味わうためではなく、身体がどう反応するかをひたすら知るためのものだ。好奇心ともちょっと違う。
山川さんがプリントアウトされた紙を取り出す。ある人物の脳のMRI画像です。綺麗な頭ですね。ここに、この頭の持ち主の名前が書いてあります。ヨ・コ・マ・チ・ケ・イ・コ。これから上演するのは、この彼女の脳から生まれた物語です。暗転、山川さんはPAブースに戻り、ステージに横町さんが現われる。
電話のベルが鳴る。受話器をとる音、はい、と言う声。同時に電話が切れる。誰?誰なの?言葉のリフレインと、電話のコール音で構成された音楽が演奏される。まずその声が聴けたことが嬉しかった。横町さんの声、大好きなんだ。私は横町慶子です。ロマンチカと言うグループで踊っていました。左右非対称の人間です。語りがやがて歌になる。この辺りはインプロの要素もあった印象。山川さんはブースでPCを操作、シンバル等のパーカッションも演奏し、横町さんの動きへ音楽をつける。
鏡の後ろに横町さんが立つ。鏡はマジックミラーになっていて、点滅する照明により、横町さんの右半身と左半身が交互に浮かび上がる。白いドレス、白い肌。長い髪。ちょっと緊張している感じの顔。ああ、横町さんだ!
半分を失くしてしまった、その行方を探している。ひとりごとのように話し乍ら、横町さんは右手で手紙を書く。紙を折る。紙飛行機を飛ばす。上手からマシンがゆっくり歩み寄る。この機械、見覚えがある。ピューリタンベネット7200Aだ。あいトリ2010『Pneumonia』以来の再会!公演前、山川さんが「ピューちゃんが出る」と仰ってたのでピュ〜ぴるさんのこと?と思っていた。そうだった、ピューちゃんと言えば彼だったね。何故かピューちゃんのことは彼だと思ってしまうなー。彼女かも知れないね。
私の名前はピューリタンベネット7200A、ひとの呼吸を助ける仕事をしていました。名古屋の病院で働いていました。自己紹介をしたピューちゃんに横町さんは話しかけるが、なかなか会話にならない。ピューちゃんのボディを通して山川さんが唄う。いや、やっぱりピューちゃんの歌になるのかな。デイジー、デイジー(HAL?)。僕の頭は半分壊れてる。僕の身体も半分壊れてる。ピューちゃんと横町さんの会話、デイジーの歌、壊れた半分を探している横町さん。ピューちゃんに手を繋ごうと語りかける横町さん。手を繋ぐふたり。やがてピューちゃんは去っていく。
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03月01日(土)
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