ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『アルゴ』
映画ならではのスリル満点な編集術も素晴らしかった。カナダ大使私邸内での静かな緊迫感を丁寧に描写、トニーが作戦を続行すると宣言してからのギアチェンジが鮮やか。ここからぐんぐんスピード感が増す。嘘ついてでも(この嘘がまたいい・微笑)大統領補佐官に連絡つける上司、間一髪で変更が反映される搭乗手続き。ペルシャ語の会話に字幕を出さない(登場人物で会話の内容を完全に理解出来ているのはペルシャ語が堪能なジョーのみ)、事務所の電話になかなか出ない、シュレッダーにかけられた顔写真の復元が完成する、バスのエンジンがなかなかかからない、離陸してから一瞬映る飛行機内の電話(管制から指示が来て強制着陸させられるかも)。それぞれのシチュエーションを短いカットでたたみかけ、実際には多少ずれているかも知れないそれぞれの時間軸を凝縮し、緊張感をギリギリと高めていく。最後は皆助かるって知ってるのにすごいドキドキしたもんね……。そもそも「映画ならではのスリル」と言うのは観終わった後気付くもので、観ている最中は入り込んでしまってそんなこと思ってる余裕がないものです。

そしてついに「イラン領空を出ましたのでアルコールを提供します」ってアナウンス、涙ダー。こことか、トニーが一枚だけ当局に提出しなかった絵コンテの行方とか、伏線の回収も丁寧なんですよね。カナダ大使邸のお手伝いさんが虚偽の証言をする根拠のひとつとなったであろうシーンもそう。冗長な説明はせず、ちいさな根拠をちょっとずつ。これら「ちょっとずつ」がトニーたちの助けになっていく。いちばんぶつくさ言っていたジョーが大芝居を打つシーンには思わず笑みがこぼれました。

エンドロールでは、当時の画像とともに主要人物のその後が紹介されます。彼ら以外の、人知れず自分の仕事を全うした人物たちはどうなっただろう?「新作は?」「ポシャった」。やっぱもうじいさんで時代の流れを読めないプロデューサーになっちまったな、とレスターは笑われたかも知れない。イラクに渡ったお手伝いさんはイランイラク戦争に巻き込まれていくことになる。絵コンテをもらってちょっとはしゃいでいた革命防衛軍の兵士たちは……登場人物たちへの優しい視線と、ほろ苦い余韻を残して映画は終わります。これを二時間にまとめている手腕も見事だよアフレック…ヘンな例えだが腕のいい植木職人の剪定のようだ。監督作三本目にしてこの熟練っぷり、これからどんな映画を撮っていくのか、とても楽しみ。

“OK, Let's make a movie.” 大の大人が大嘘をつくために全力を尽くす、それって映画作りそのものじゃないか。アフレックの映画への愛が溢れた上質な作品です。“Argo, fuck yourself!”

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その他。

・『アルゴ』アントニオ・メンデス、マット・バグリオ
原作読んでみようー

・映画「アルゴ」特別企画|日本経済新聞 電子版特集
当時の新聞記事が読めます

・思えばリアルタイムでいちばん最初に憶えたアメリカ大統領てカーターだったわー。ホメイニ師も名前がこどもにはなんとなく面白い響き+氏じゃなくて師なんだーってので印象に残ってた…(世代)どういう人物かってのを知るのはずっと後の話

・パンフのデザインにニヤリ、手にとってみる迄気付かなかったー。シュレッダー怖い!

・タイタス・ウェリバー出てた。ベンアフ監督作品皆勤賞〜

・『ボーン・レガシー』の悪者ふたり(銃乱射のおっちゃん→国務省でゴネるひと、韓国のエージェント→カナダ大使夫人)がこっちにも出ていたので、裏切ったりするんじゃないかと違う意味でヒヤヒヤした……

・『ザ・タウン』でもそうだったけど、ベンアフってときどきえっなんでそこでって言う自分のポカーン顔ショットを入れるけど、あれ結構いいアクセントになりますねー。印象に残るわ

・映写機トラブルで上映開始が遅れ、予告はホビットさんの一本だけ。その後NO MORE 映画泥棒が流れてすぐ本編だったので心の準備が!始まる前からハラハラドキドキですよ

・偽映画『アルゴ』も実はちょっと観たい。完成させてほしかった(笑)

・こういう理由でお蔵入りになった映画って、実は他にも沢山あったりするのかなー

11月01日(木)
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