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西方見聞録
by マルコ
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■書評:「歴史を見つめる:日韓の大切な人たちとともに」宮内秋緒

この2年ほど、学生とともに「在日コリアンはいかに学ばれてきたか:日韓歴史教育現場の対話から」と題したフィールドワークをしている。このプログラムの参加学生は在日コリアン当事者や日韓の歴史研究・教育に関わる人に出会う旅をする。事前学修や、あるいはフィールドワークの場で、学生たちは高校までに学んできた「日韓史」の「薄さ」に愕然とする。年表的に並べられた項目は頭に入っていても、フィールドで在日コリアンの方や、あるいはソウルの植民地歴史博物館の学芸員の方が語る話は血肉や、ときに痛みを伴い、語られる歴史の厚みの前で、日本で通り一遍の知識を身につけただけの学生は自らが「知らない」ことを痛感させられる。もっと分厚い歴史を学べる場はないかと模索し、ネットを検索すると、日韓史についての専門書は膨大で、ときに修正主義的史観による植民地主義礼賛的な記述も紛れ込み、さらに学生たちは混迷する。
日韓史において、高校の教科書から専門書へ架橋をする読みやすい入門書を選ぶのはなかなか難しい。そんな中私はこの宮内秋緒氏による2022年6月出版の「歴史を見つめる:日韓の大切な人たちとともに」に出会った。
本書では日韓史において抑えるべき事柄が非常にわかりやすく、しかし通り一遍の記述ではなく「血肉をもって」時に「痛みをもって」私たちに訴えかけてくる。古代から近現代にかけての長い日本と朝鮮半島の交流の歴史、植民地化への抵抗や3・1独立運動、日本軍「慰安婦」問題や強制連行、日韓条約と戦後補償、済州島4・3事件、そして韓国の民主化に向けた光州事件や6月民主抗争。いずれも本来ならそれだけで何冊もの本が書けてしまう大テーマを網羅している。各章にさける紙面はもちろん限られるので、多くの場合、参考文献やその事実を描いた映画などが紹介されていて、より深くその事実を学びたい人はこの本を扉として、さらなる歴史探訪の旅が始められるようになっている。
さらにさまざまな「人」にスポットを当てた記述も暖かくて深い。「抗日運動家」、「日本軍『慰安婦』」、「植民地時代を生きた朝鮮人または日本人」がカテゴリーにくくられた集団ではなく、「顔を持った個人」として私たちの前に現れる。安重根、金九、金福童さん、尹東柱、浅川巧といった人々である。特に私がこれまで知らなくて今回本書で初めて名前を知った「田内千鶴子」「布施辰治」「大川常吉」という日本人の姿も印象に残る。ぜひ本書を紐解いてこの3人の日本人がどういう歴史的役回りを演じたか探してほしい。日本の帝国主義が朝鮮半島出身者への苛烈な差別を伴い、吹き荒れる中、それでもあの時代の日本人が個人として正義を貫き、朝鮮半島の、あるいは朝鮮半島から日本に渡った人々に寄り添い、人権と命を守るために戦うことができるのだと、私たちに教えてくれる。その姿は、今ヘイトスピーチや歴史修正主義が吹き荒れる日本で無力感を持つ私たちに「あきらめる前にできることはあるのだ」という励ましを与えてくれる。
宮内秋緒氏は日本の神戸で生まれ、奈良の大学で朝鮮史を学び、韓国に留学し、韓国の男性と家庭を持ち、日韓ダブルのお子さんを育てながら、子どもたちに継承語・継承文化としての日本語・日本文化を伝える活動をしていた。その中で子どもたちが日本にルーツを持つことで不当な扱いを受けないために親も子も日本と朝鮮半島の歴史を学び、正しい知識を持たねばならないという思いから「九里歴史倶楽部」を立ち上げる。本書に収められた文章は九里歴史倶楽部での勉強会の成果や宮内さん自身が大切と思うことを地元のコミュニティ誌「京畿多文化ニュース」に2015年末から日韓両語で連載されたコラムが基になっている。

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11月18日(金)
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