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西方見聞録
by マルコ
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■酒井順子A パラダイムシフト
1号さんを産んだばかりのころ「何で子ども小さいのに働くの?」という質問を受けて「働く理由」を一生懸命説明したなんてこともあった。ところがおKさんを産んで失職してフルタイムの労働から遠ざかって以来、「(健康で経験もあるのに)なんで働かないの?」と問われ、働かない理由を説明する場面も出てきたりしてきた。
世の中「子育て中も働いて当然」の方向性にパラダイムシフトしているように思う。少子高齢社会の訪れとともに若年労働力の希少化が予測され、女性労働力を労働市場に組み込もうとする国の意図もなんとなく感じる(このとき社会のコアは既得権としておやじがガッツリ握って女性労働力はあくまで2級労働力として扱おうなんて雰囲気もそこここに感じるがそれはまた別のお話)。
さて昨日酒井順子の「少子」がおもしろい!と叫んで心に残った部分だけ抜書きして断片的な感想だけ述べたが、本質を今ひとつ捕らえきれてなかったので、酒井論、リベンジ。
「少子」の中の酒井順子の新しさは多分、女を巡る状況について新たなパラダイムシフトを告げている点だ。
これまでは30代の女性で結婚していなかったり、子どもがいなかったりすると「何故結婚しないのか?」「何故子どもを産まないのか?」という有言・無言の疑問が投げつけられてきた。勿論この背景には人は結婚して子どもを生むのが完成形でそう至っていない人はそのゴールへの道程にいるプロセス上の人間であると言う認識だ。そしていつまでもゴールに向かおうとしない人には「何か問題があるの?」と無心な質問がなされる。
この女の人生、母になって一ちょ上がり的、1系進化論は、全ての社会は経済発展を経て工業国へと離陸していくと言うロストウの近代化論と似ている。人類学で言えば全ての文化はアニミズムから多神教を経て一神教に至ると言う進化主義文化論に似ている。ちなみに1系的進化発展の道筋を説いた近代化論も進化主義人類学も現在は否定されており文化も社会も多様な方向性をもってそれぞれ固有の進み行きを示すという文化多元論が現在は広く認知されている。
そこで酒井氏は「何で結婚しないの?」「なんで子ども産まないの?」の世界から「何でわざわざ結婚するの?」「何でわざわざ子ども産むの?」と言う疑問も成立しうる世の中へと日本はパラダイムシフトしようとしていると告げている。
「何であんなに痛そうなのに/めんどくさいのに/従来のライフスタイルがぶっ壊されるのに/キャリアが中断するのに/男が魅力的でないのに/結婚はうざいのに、子ども産むの?」と、産むにいたる個人レベルの脱力系障壁がこれでもかと並べられ、「個人レベルの欲求に照らせば、フツウ産まないでしょ?」と結論付けられる。
少子化に関する議論はこれまでも腐るほどされており、いずれも少子化は克服すべき問題でその原因は社会・経済の構造的問題に帰されて来た。しかしこの本では少子化の原因は個人の欲求の結果であり、少子化(究極的には滅亡)は受け入れられるべき問題と定義される。
「出産は物好きで体育会系熱血好きな血中アドレナリン過多な人々が行う滅び行く伝統芸能なのだ。好きな人がやればよい、みなが手を出すことはない。そして少子化の行く手にある西暦3500年日本の人口1人と言う切なくも笑える現実をを受けいれよう」という「世も末」感漂うロジックが展開される。
成熟した民主社会では個人の欲求は国家の利益をしのぐのだなーとしみじみ。
まあ血中アドレナリン濃度の高いわたしとしては多様な選択肢の一つとして結婚・出産を選んで、滅び行く日本のたそがれを子どもの手を握って見つめていくのか〜とすっかり酒井パラダイムにシフトしてしまった脳みそで考えたりする。
12月23日(火)
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