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西方見聞録
by マルコ
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■ハリーポッターとレイシズム
 イギリス教育界の移民子弟に対する対応は1950年代〜60年代の同化主義、70年代の統合主義の時代を経て、80年代、多文化主義の時代に入る。移民子弟の多い地域の地方教育局は多文化教育の砦として数々のリベラルな教育を展開した。イギリスに存在するどの文化も対等であることをみとめ、レイシズム(人種差別)と対決(対決のための細かい禁止事項とガイドライン策定)、多文化社会構築のためにマイノリティの要求へのきめ細かい対応等を基本に、レイシズムを克服する次世代を育てる試みが行われた。さらに無知から来る偏見を克服するために「ワールドスタディーズ」と言う必須科目を設置し、移民送り出し側のパンジャブ地域やカリブ、アフリカの文化伝統を学習する機会が持たれたり、既存の歴史科を植民地側から読み直す試みなどもされた。

 こうしたイギリス教育界(特に地方教育局)の動きに対しナショナルフロントは特にリベラルな教育をする教師の実名をHPで公表し『ルーニー・レフト(気狂い左翼)』とバッシングする。

 こうしたレイシズムとそれと戦おうとする教育界に対してサッチャー保守党政権が行ったのは1988年教育法の施行だった。

この教育法は簡単に言うと

・教育の決定権を地方教育局から国または各学校へと委譲する

・コアカリキュラム(重点科目) 数学・英語・科学と基礎科目 外国語・歴史・地理・技術・音楽・体育を設定し、7歳と14歳と16歳で全国統一テストを実施する。コアカリキュラム偏重。成績の悪い学校は生徒獲得が難しくなる(=予算配分を減らす)。

というものだった。

 政府はレイシストよりも教育界を標的に『改革』をしたのだ。ヴォルデモートと対決するのを避けて魔法学校の改革に乗り出した魔法大臣ファッジのように。

 魔法省によって魔法学校に送り込まれたアンブリッジ先生が次々と改革を繰り出す。同僚教師に対して、『教師は教科以外は教えてはならない』という新しい教育令を出す。自身の担当する『闇の魔術に対する防衛術』では「理論さえ習得していれば実際の戦い方は知らなくてよい。」といい延々と教科書だけ読ませる。それに対して生徒たちは「(学校の)外の世界で待ち受けているものに対して準備をするのよ」(第5集上巻512ページ)と、社会に出て実際に闇の魔術師たちと戦わなければならない場合に備えて自ら学習するグループを立ち上げる。


 まあこんな記述をいちいち現実のどういう状態を風刺してるのか読みかえながら、読んでいくと、ハリーポッターもなかなか楽しい。今1号さんの要求に従い、また1巻から本気音読に再び取り組まされてるんだが。

 今後ラストに向けて、ハリーポッターがそのたくさんの読者とともにどちらに向かうか楽しみである。

02月10日(金)
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