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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■若者よデートカーに乗れ!
 かつて、自動車のジャンルにはいわゆるデートカーと呼ばれた、若者向けの安価な2ドアクーペの系譜が存在した。古くはセリカ、これはあの連続婦女暴行殺人鬼の大久保清をモデルにしたドラマで北野たけし演じる主人公がセリカLB(リフトバック)に乗っていたことを覚えている。(実際はマツダロータリークーペに乗っていたらしいが、デートカーであることは間違いない)オレが昔から愛用してきたクルマも基本的にはこのデートカーの範疇に入る。

 大学を卒業してオレが買おうと思って候補に上げたのは、ホンダ・プレリュードと日産パルサーEXAだった。どちらもリトラクタブルライトを装備していて、この点灯時にライトがぱかっとカエルの目のように起きあがり、ふだんは格納されているという子供だましのことが嬉しかったのである。リトラクタブルライトこそがスーパーカーの象徴だと思っていたからである。国産車で最初にリトラクタブルライトを搭載したのはトヨタ2000GTだっただろうか。そのあたりだととても若者には買えないような究極の高級車である。それがたかだか200万もしないような価格で売られているチープな、大衆車に毛が生えた程度の見かけだけのスペシャルティー・カーにリトラクタブルライトが搭載されているというだけで、なんだかものすごく贅沢なことのように思えたのである。

 結局資金的な理由でオレはパルサーEXAの方を選んだのだが、そのときに買えなかったホンダ・プレリュードはオレにとって永遠のあこがれとなった。地を這うように低く構えたボンネットフードは、座高が低くて前がよく見えないオレにも好都合だったし、まぎれもなく当時の若者の最大の人気を集めていたのである。トヨタからはレビン、トレノが発売されていた。日産にはシルビアがあった。後にプレリュードの王座をシルビアが奪うことになる。それよりもちょっと贅沢な若者はマツダRX−7や日産フェアレディを買った。とにかく若者のデートカーの定番は2ドアクーペ、そしてそれよりもややプアーな層は3ドアハッチバックのファミリアXGとかスターレットとかパルサーとかミラージュに乗っていたのである。これらは今で言うとコンパクトカークラスだ。

 デートの時は二人が快適に乗れたらそれでいい。後部座席はただの荷物置き場だが、かといって後部座席のないユーノスロードスターやMR2は困る。シートが後ろに倒せないからだ。なぜデートカーのシートが後ろに倒れないといけないかは、ちょっと考えればすぐにわかるだろう。プアーな若者たちにとって、時にそのクルマは動くラブホテルとなり、そのまま朝まで過ごす宿となり、事故の時はそのままあの世に行く棺桶にもなったのだ。ファミリアXGのセールスポイントが「フルフラットシート」だったことからもそれはよくわかる。平らにしたシートで一体カップルたちは何をしようとしていたんだ。クルマを停めて七並べでもするつもりだったのか馬鹿野郎。

 それがいつからだろうか。若者は就職して最初に所有するマイカーとして、このようなデートカーを選ばなくなったのである。ランドクルーザーとかパジェロとかXトレイルとか、巨大なRV車をいきなり買ったり、エルグランドやアルファードというワンボックスカーを買うようになったのだ。荷物もたいして積めず、乗車定員も少なく、そのわりには高価なデートカーは若者の支持を徐々に失い、売れ行き上位ランキングにはワンボックスカーがいくつもランクインするようになってしまったのである。

 オレはこのワンボックスカーというのが嫌いだ。やたら図体がでかくて運転しにくいからだ。慣れればそうでもないわけだが、たまにしか運転しないからなかなか慣れない。ドライバーであるオレを無視して乗員たちは勝手に盛り上がることが多い。ワンボックスカーとはつまり、ドライバーの幸福を犠牲にして他の乗員が快適に楽しく過ごせることを意図して作られたクルマなのである。


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07月11日(火)
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