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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■医師の息子に生まれるということ
 今の日本には職業選択の自由がある。この自由がないのは唯一天皇家の男子だけだ。それ以外の庶民の家に生まれてきたならば自分の好きな職業を選べるはずである。医師の息子に生まれてきたからといって別に医師にならなければならないわけでもない。しかし、多くの医師はわが子が自分の職業を継いでくれるのを望むのだろうか。その仕事の苦労を分かった上でそれでも同様の人生を歩ませようとするのか。一介の暴言野郎であるオレにはわからない。

 こんなオレもかつては医学部を目指す受験生だったのだ。だから、先日の奈良県・田原本町で起きた一家三人焼死事件で自宅に放火した高校一年生のことについて書きたいと思う。なお、最初にこの事件を報道した際、朝日新聞の夕刊はその高校一年生の名前も通ってる高校も実名で記事にしたのだが、毎日新聞ではどちらも伏せられていた。オレは朝日の記事を読んだときには、長男の遺体は焼け跡でまだ見つかっていないのかと思ったのだが、一緒に届いた毎日が名前を伏せてるのを見てすぐに「重要参考人だな」と分かった。するとその時点でなぜ朝日新聞は実名報道していたのだろうか。日頃声高に人権の擁護を語る新聞社にしては信じられないミスじゃないかと思ったが、まあボンクラ記者がよくわかりもしないで記事にしてしまったのだろうと勝手に判断する。オレの手元にはすでに非公開になってる少年の実名や通ってる学校名(実はこれがかなり重要な要素なんだが)が新聞記事の形で存在するのである。

 話を戻して、なぜただの露天商の息子であったオレが医学部に行こうとしていたかだが、物心ついた時から優等生で、いちおう地元では一番の公立高校に入ったオレとしては、医学部を目指すというのは一つのお約束みたいなものであった。無医村に行って困った人を救いたいとか、難病を撲滅したいとかそんな明白な意志があったわけでもなく、金持ちに成り上がれる唯一の手段が国公立の医学部に入って医師になって高収入を目指すことだとオレは思っていたから、そして自分の成績でそれは不可能ではないと思えたからそういう夢を持っていただけのことだ。

 進学校ではみんな勉強している。成績の悪いヤツも実は勉強している。素質があってしかも勉強しているヤツばかりなのだ。もちろんこのオレも最初は「オレは天才だから勉強しなくても大丈夫だ」と錯覚していたが現実はそんなに甘くなかった。結局一日に6時間くらい机に向かって勉強することとなってしまい、模擬試験の時も志望校に「京大・医」とか「慶応・医」などと書いていたのだが、ある日突然人生に対して投げやりな気持ちになり、その時のオレは別に医学部にどうしてもいかなければならない事情などなかったからあっさりと敵前逃亡した。文学部というもっとも医学部からかけ離れた世界へと進んだのである。

 幸いオレには逃げるという自由があった。もしも医学部受験から逃げることができなかったら、そして東大や京大以外の選択肢を親が許さなかったとしたらどうだろう。そんな狭き門を抜けることができるほんの一握りの存在になれる自信がなければどれほど閉塞感を感じるだろうか。

 教師であるオレはそこそこの成績の生徒には「もっと頑張れ」と言うが、真の優等生に対してはそんな励ましは言わない。世間の多くの教師はかつて「普通の受験生」だったわけだが、少なくともオレはそれを突き抜けたところにいた「到達者」だったと思っている。もと普通の受験生だった教師たちが「もっと頑張れば」と思うのは自分のモノサシで目の前の生徒を計ってるからであり、自分を遙かに超えたステージに立っている「到達者」である生徒に対して「もっと頑張れば」なんて頓珍漢な発言をするべきじゃない。「到達者」に対してオレは「好きにしろよ、おまえの人生なんだから」と言うだけだ。


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06月24日(土)
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