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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■大阪で一番おいしいお好み焼き屋さんの閉店
 張り紙には閉店の理由は何も記されていなかった。しかし、後継者がいなかったのならいつか店は継続できなくなる。それは厳然たる事実だ。他にもいろんな理由があったのかも知れない。小麦粉が暴騰して同じ値段ではとてもやっていけなくなったとき、値上げしてお客さんに不愉快な思いをさせるよりも、閉店という道を選んだのかも知れない。それは推測するしかない。ただ、この美味しいお好み焼きが食べられるのなら、多少値上げになってもかまわないというのがオレの正直な気持ちだった。こんな美味しいお好み焼きがこんなに安いということでオレはむしろ罪悪感を感じていた。もしも小麦粉の値上がりが原因ならば、どうして値上げしてでも店を続けてくれなかったのかとオレは思ったのである。

 お好み焼きを食べていて、オレは一度お店のおばちゃんに「HPで書いてくださったんですね」と声を掛けてもらったことがある。なんでもお嬢さんがオレのサイトの「こだわりの店」のページを印刷して見せたそうなのだ。きっとそれを読んだだけで、店に良く来るあやしいオッサンがそのサイトの主であるとすぐにわかったのだろう。オレは赤面した。そして、勝手に紹介した非礼を詫びたのである。

 オレ以外にも「和美」には多くのファンがいたようである。わざわざ遠くからクルマで来る方も多かったらしい。昔その街に住んでいて、久しぶりにやってきた時やはり懐かしい店を訪れるというパターンもきっと多かっただろう。週末しか営業しないその店に、多くのファンは通い続けたのだった。きっと多くのファンがあの閉店の張り紙の前に立って茫然としただろう。あまりのことにコトバを無くしただろう。単なるなじみの店という程度のものではい。オレにとってその店のお好み焼きは、それこそ毎日食べても絶対に飽きることがない、オレにとっての主食に等しい最高のお好み焼きだったのだ。それをオレは永久に失ってしまったのである。なんということだ。

 大阪には有名なお好み焼き屋がたくさんある。もちろん他の店もそれなりに美味しいことは認める。しかし、そのどの店もオレにとっては「単なるお好み焼き」であり、毎日食べるには飽きてしまう味だった。中学生の時から数えると35年近く、つまりほとんど店の歴史と同じくらいの期間、オレはその和美のお好み焼きを食べてきたのである。ずっとその味を愛してきたのである。

 「もう二度とあの美味しいお好み焼きを食えない」という事実は、オレの心を寂寥感で満たした。「貸店舗」になってしまったあの店で誰かが再びお好み焼き屋をするのだろうか。そしてあの味を再現してくれるのだろうか。それともやはりあの味は永遠に失われてしまうのだろうか。30数年連れ添った恋人が急死したようなショックをオレはこれからどう受け止めればよいのか。そんな悲しい事件だったのである。

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04月14日(月)
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