ID:41506
江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■医師の息子に生まれるということ
 入ること自体がかなりの難関であるその有名進学校にこの少年は入学できた。しかし、そこでさらに上位に定着するだけの成績はとれず、それを父親から責められていたわけだ。そこそこの成績をとれる優等生ではあっても、「到達者」ではなかったのだろう。そのことに気がついた彼は、「身の丈にあった進学先を選ぶ」という選択肢をとらず、かといって「勉強そのものをやめる」という選択肢も選ばなかった。自分に「医学部受験」という進路以外を許さない厳格な父親に対して彼がとったのは、父親の最も大切なものを奪うという行為だった。これはそんな事件ではないだろうか。オレにはそんな気がするのである。自分から実母や実の妹を奪った父親に対する復讐がこの行為ではなかったか。祖父母の家によく泊まっていたということは、父と継母が支配する家で強い疎外感を覚えていたからに他ならない。

 そういう場面で「自殺」という自己否定に向かう者もいるだろう。しかし彼が否定したかったものは自分を取り巻く疑似家族であり、成績という絶対的なモノサシで自己を支配しようとする父親と、その忠実なしもべであった母親ではなかったか。父が不在の時を狙って放火したのは、両親とも失うことのリスクを考える計算が働いたからではないか。そんな種々のことを思う。

 そしてオレはどうしても父親の立場で考えてしまうのだ。この少年が逆送されて刑事裁判を受けたとして、10年もすれば仮釈放されてくるのである。自分の妻と子どもたちを奪ったという点に於いては、山口県の母子殺害事件の本村洋さんと殺人犯の関係と変わらない。ただその殺人犯が息子であるという点を除いては。その息子を父親はどうやって受け入れればよいのか。その殺意の源泉が、自分の課した教育にあったという事実をどう理解するのか。日頃殺人犯に対しては厳しいことを書くオレも、今回の事件ばかりはちょっとそんな気にはなれない。もちろん「放火殺人」という行為を擁護するものではない。

 彼は逃げ出したかったんだ。民家に入り込んでワールドカップを観ていたという点からもそれはよくわかる。しかし、両親や弟妹と一緒に暮らす家では、のんびりサッカーを観戦できるような、いわば同い年の高校生の当たり前の生活……が充たされなかったのである。どの時代にも親子の葛藤はある。そして理不尽な親もいれば、物わかりのいい親もいるし、全く何も考えていない親もいる。親は子どもを持つも持たないのも自由だが、子どもは自分の親となる人を選べない。「こんな家に生まれて来たくなかった」と思っても、すでにその宿命は始まってしまっているのである。

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06月24日(土)
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