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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■Qちゃんと円谷幸吉
 彼の生家を訪問したときに、初老の女性がお茶を出してオレの相手をしてくれた。そして、「あんな優しい子がどうして自殺なんかしたのか。」と嘆いた。「優しすぎた」から、死んだのではなかったか。26歳になってたった一度、その規矩からはみ出そうとした彼は好きな女性と結婚したいと自衛隊の上官に訴えた。しかし彼の意志は「オリンピックで勝つまで結婚させない。」という上官の命令に踏みつぶされた。

 オリンピックが終わるまで待っていれば女性は適齢期を過ぎてしまう。彼は遠征のたびにいろんなおみやげを婚約者の女性の元に送っていたが、そのおみやげは段ボ−ル箱につめられて彼のもとに全部送り返されてきた。自分との結婚よりも上官の命令を優先した彼を許せなかった彼女の意地もまたオレには理解できる。彼女は円谷幸吉に「規矩の人」として生きるのではなく一人の女を愛する人間として生きて欲しかったではないだろうか。

 陸上競技という記録を相手の最終的には一人きりのスポ−ツを選んだときに孤独と忍耐は自明の前提である。彼の死を「長距離走者の孤独」という形で理解してしまうことはやさしい。しかし、この「遺書」をそれだけで理解できるとは思えない。故障を抱えながらも、「オリンピックで勝たなければならない」という期待に応えるために、彼は故障の痛みに耐えて走り続けた。

帰省していた円谷幸吉が、合宿所に戻るために幸造兄の車に便乗させてもらってから、1月9日未明に自殺するに至るまでには空白の時間がある。この間の彼の行動の足どりはつかめていない。死の寸前、彼はどこで何をしていたのだろうか。

 須賀川市の彼の生家の前には「忍耐」の2文字を刻んだ記念碑がある。その2文字の前に立った時、オレは彼に語りかけたかった。
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11月22日(火)
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