ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■クリスマスボウルはどんな味?(アイシ)
 プロボクサーには正月や盆どころか休みもない、とは誰が言ったことやら。

 だが、ボクサーに限らず、仮にも世間一般的な『スポーツマン』と目される人種に休日など、数えられるほどしかないのも事実。
 凶悪、かつ脅迫手帳で集めた奴隷を酷使しまくることにより、所謂健全な『スポーツマン』の定義からは若干外れている蛭魔妖一にも、その例えは成り立っていた。

 そんな彼が、泥門高校に来て初めての冬休みを迎えることとなった、前日のこと。


「やーっと収まりやがったか、この糞天気が」

 ヒル魔が、そう忌々しげに吐き捨てるのも無理はない。先ほどまで窓の外は、いきなりの猛吹雪に見舞われていたのである。
 おかげで、折角終業式とホームルームだけで授業が終わったというのに、大部分の生徒が校舎内で足止めを食らっていたのだ。ただし積もるような雪ではなく、歩道を自力で開拓する、なんて憂き目にならなかっただけ、まだマシと言うものだろう。

 ただしヒル魔にとっての『糞天気』とは、一歩たりともグラウンドへ出ることを許されなかったことへの、罵りの意味が強かったわけだが。
 加えて、もう1人のアメフト部員、栗田良寛が「今日は急用が出来たから!」と、雪が本格的になる前に帰ってしまったことも、彼の苛立ちを募らせていた。・・・さすがのヒル魔とて、たった1人で、寒風吹きすさぶグラウンドで練習、などぞっとしない。

 こういう日もあるか、と、とりあえず割り切ることにして。
 とっとと帰って、このところ溜まる一方だったデーターの整理でも───そう計画しつつも、今一つ気の乗らぬ風情で、玄関まで来たヒル魔だったが。

「??」

 外───つまりは通用門付近───がやけに騒がしいことに、つい眉をひそめる。

 やっと帰宅できる生徒の嬉しさ故の歓声、というには声がデカイ。かと言って、何かしらの事件が起こった場合の、緊迫した空気とも異なる。

 どこかの身の程知らずが、ヒトの縄張りで騒いでやがんのか───。

 眉間の皺を更に増やし、足取りも荒く通用門へとズカズカ歩み寄ったヒル魔の目に、2つの鮮やかな色彩が飛び込んできた。

 周囲を寒々と染めている、白、と、それと相対する暖かさの象徴、赤。
 今の季節それらは、サンタクロースの扮装を意味する。

 日頃、四季の情緒に無関心なヒル魔ですら、そのことに気づき。
 そのサンタクロースとやらが、泥門生徒と楽しく記念撮影なんぞしてやがるのだ! と思い至った頃、いっそ駆け足と言っていい勢いで通用門へと踏み込んだかと思えば。

 ドカッ!!

 ほとんど条件反射で、満面笑顔の巨体サンタクロースを、蹴飛ばしていたのだった。

「何してやがンだ、糞デブ!」
「ひ、ひどいよヒル魔ぁ〜。いきなり何するの〜」

 予想通り。白いひげの下から返って来たのは、いつも聞きなれた栗田の苦情。
 積雪に頭から突っ込んだせいで、赤いサンタ帽にこびりついた白いものを、手で払って落としながらの。

「それはこっちのセリフだ。てめー、用があって帰ったんじゃなかったのか、あぁ?」
「・・・機嫌悪いねヒル魔。グラウンド使えなかったの、まだ怒ってるとか?」
「俺の質問に答えろってんだよ【怒】」
「だからー、そんな物騒なものしまってよー。クリスマスにふさわしくないでしょ」

 周囲が完全にヒいているのを余所に、栗田はサンタの扮装にふさわしく、穏やかに友人を宥めた。

「僕の用事はこれからなんだ。隣り町の教会へ、手伝いに行かなきゃいけなくって」
「坊主の息子が趣旨変えか?」
「そんなんじゃないよ。今日だけだってば。ちゃんと父さんにも、許可貰ってあるし。
あのね、教会のクリスマス会に来てくれた子供たちに、このカッコでお菓子あげるんだ」

 聞けば、本来サンタ役を演じるはずだった人間が、風邪で寝込んでしまったのだという。急な予定変更にピンチヒッターはおらず、たまたま近所を通りかかった栗田に、白羽の矢が立ったらしい。

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12月25日(金)
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