ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■春の香は碧 【鳴門】 前編
 苦味と、塩辛さと、春の独特な香りに、知らず知らず顔がほころぶのだった・・・。





 そもそも、好んでは山菜を口にしないカカシがフキノトウを食べたのは、あれきりになる。
 あの居酒屋にも、それから足を運んだことはない。料理はそれなりにうまかったし、値段も手ごろ、雰囲気も嫌いではなかったにも、かかわらず。

 ただ、一度きりで印象が強かったのか。そばに生えているフキノトウを見た途端、あの日の風景が一気に甦って来て、カカシを妙に落ち着かない気分にさせた。


『蕾が開ききらない方が、フキノトウはうまいんだぞ』


 酔って饒舌になった口で、そう偉そうに言っていたガイの声音すら、呼び起こされて。見れば傍らのフキノトウは、おあつらえ向きに蕾が閉じたままだ。

 チャクラが回復したところでカカシは体を起こし、そっとフキノトウに手を伸ばしかけて・・・。


「・・・っ・・・」


 自分の指先に、浅黒いものが付着していることに気づき、動作を止めた。


 周囲の穏やかさと、フキノトウへの感慨につられて忘れかけていたが、カカシは先刻、抜け忍を『処理』したところだったのだ。

 グッ、と拳を硬く握り締め、目を閉じる。
 この手で、香り高き若葉を摘み取ってはいけない、と言う思いに囚われたから。

 何をきれいごとを、とあざ笑う別の自分がいる。だが、血にまみれたこの手で集めたものを渡しても、ガイは喜ばないような気がした。

 別に、ガイを神聖化するつもりはない。どころか、彼だって血生臭い殲滅戦に赴いたことすらある。他ならぬカカシが、その見届け人として同行し、その見事なまでの徹底振りに、戦慄したぐらいだ。

 けれど・・・。

 ふとそこでカカシは、ガイに焼き味噌の調理をせがんだ居酒屋を思い出し、急にいたたまれない心境に陥る。
 そして、すぐに帰郷しなければ、と言う奇妙な義務感に襲われ、休憩もそこそこにその場を後にした。


 ───ひょっとして・・・・。






■続く■

04月15日(水)
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