ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■一昼夜【いちにち】(1) ネウロ・筑紫視点
───間違いなく、脳噛ネウロと桂木弥子だ。多少の汗や砂埃にまみれてはいるが、外見上怪我をした様子はない。服装の乱れも、無い。表情はかなり強張っているが、心配したほどの怯えはない。
周囲に気を払いながらも、筑紫は顔なじみ2人の無事に、ホッと胸をなでおろした。その雰囲気に気づいたのか、ふと弥子がこちらを見やる。
が、筑紫とまっすぐ目が合った途端。
ガクン!
いきなり弥子は膝から、その場にしゃがみこんでしまった。そしてそのまま、立ち上がれなくなる。
「先生!」
「桂木探偵!?」
「あ、あれ・・・? な、何か変だな。いきなり足とか、何か、重くなっちゃって・・・ゴメン、さっきまでちゃんと、歩けたのに・・・」
そう言いながらも、段々途切れ途切れになっていく彼女の声。目も、どこかうつろになって行って。
そのまま力なく、頭から倒れるところを、ネウロが優雅な仕草で抱きとめた。
「桂木探偵!」
「ああ・・・大丈夫ですよ。多分、笛吹刑事たちの顔を見て安心したから、緊張の糸が切れちゃったんでしょう。結構ハードスケジュールでしたし」
「本当に大丈夫なのか? かなりぐったりしているが」
「ご心配なく。先生は僕が体を張って、ちゃんとお守りいたしましたから。その代わり、空母にいた隊員さんたちとかちょっと怪我させちゃいましたけど、まさか過剰防衛とか言いませんよね?」
ニッコリ、と胡散臭い笑顔を見せるネウロに、笛吹は渋い表情になる。・・・いかに有能で狡猾な弁護士でも、主張できるはずがない。空母に配属された隊員全員に襲われた2人が、必死に抵抗した結果が過剰防衛だ、とは。陪審員も満場一致で、正当防衛を認めるだろう。
分かりきったことを論じるのは時間の浪費。それ故にだろう、笛吹がネウロに尋ねたのは別のことだった。
「・・・では、今なら空母の中は自衛隊でも制圧できるというのだな?」
「ええ、多分。でも急いでくださいね? 一応皆気絶はさせましたけど、時々タフな人はいるものですから。彼らが正気を取り戻す前に、早いところ確保しちゃってください。
あ、それと、先生がおっしゃってましたが、電人HALから電子ドラックの正式なワクチンを預かっているそうです。まだスーパーコンピューターの中ですが、そちらも確認した方がよろしいですよ?」
「ワクチンだと!? それを早く言わんか!」
笛吹がそう怒鳴ると同時に、待ち構えていた自衛隊員が一斉に空母の中へと駆けて行く。連絡を受け、救急車がサイレンの音と共に駆けつける。
東京湾は今までの静けさが嘘のように、ひどくあわただしくなった。
ネウロは優しい仕草で弥子を担架に横たえた後、彼の手当てをしようとする救急隊員を断って、笛吹たちの前に立った。
「まことに申し訳ありませんが、しばらく先生をお預けしてよろしいでしょうか? 笛吹刑事。僕はこれから、色々とやらなければいけないことがありますので」
「やらなければいけないこと? 探偵を放ってか?」
「要は事後処理ですよ。こればっかりは、他人を当てなど出来ませんから。・・・では、先生をよろしくお願いします」
そう告げるが早いか、ネウロは足早に歩き出す。筑紫も慌てて彼を止めようとしたが、ちょうどそこに目ざといマスコミ関係者が現れ、ネウロの姿を見失ってしまう。
「質問に答えてください! 自衛隊が突入したということは、何か進展があったということですか?」
「先ほど東京上空で起きた爆発は、このことと何か関係があるのですか?」
「何か教えてくださいよ!」
「ノーコメントだ! 今は一切応えることが出来ない!! 後で正式発表を行うから、それまで待て!」
怒涛のごとく押し寄せるマスコミを何とか巻いて、筑紫は笛吹を車に乗せ、発進させる。その後に、弥子を乗せた救急車が続く。
しばらく沈黙が続いた後、笛吹は眼鏡越しにこめかみを押さえながら、独り言のように呟いた。
「・・・つまりあの助手は、あのマスコミ攻勢からも探偵を守れ、と言いたかった訳だな?」
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01月25日(金)
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