ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■世界で最も端的なる主張(モン●ーターン)
そう言えば十数年前、蒲生がSG決勝戦でまさかのフライングを犯した時、実は洞口武雄が同じレースにいたと聞いている。そして蒲生はそれ以来、SG斡旋を辞退して来たのだから、グレードの高いレースを好んで戦っていた『愛知の巨人』との接点が、あろうはずもない。
何となく気まずい後輩2人を見かねてか、榎木がさりげなく言葉を挟む。
「・・・仕方ないですよ、運悪くすれ違いになってしまったんですから。大怪我した洞口さんが一般戦に復帰した頃、蒲生さんがSGに復帰、でしょう? オマケに最近は、あまりベテランはG1に斡旋されませんし」
「そうそう、そうなんや。なーんかめぐり合わせが悪くてのー。今回も狙っとったんに、向こうが斡旋されんのじゃなあ・・・。しょっちゅうガチンコしとる榎木たちが、ホンマ羨ましくて仕方ないわ」
「本気でガチンコですけどね・・・何かすると、強烈なダンプかまして来る人っスから」
「そうやったのー。榎木も波多野も結構、やられとったんやったな。
っちゅうことは、ワシもまだまだかわせるレベルやないかなー。かわせるかもなー。そやから、やってみたいんにのー」
そう言って、羨望の色さえ伺わせる目をされては、さしもの洞口Jr.も毒づく気にはなれない。
「・・・ご心配なく。殺しても死にそうにないあの親父ですから、きっとそう遠くないうちにSG出場権、手に入れますよ。その時は覚悟してください。
それに、俺だってそのうち絶対、蒲生さんに勝って見せます。前哨戦なんて、もう言わせませんから」
彼らしい言い方でとっとと話を打ち切り、洞口Jr.は食堂を出て行く。
「可愛くねえ言い方」と、それでもホッとした様に憎まれ口をきく波多野は、ふと指を律儀に折りながら口ずさむ。
「『リベンジは 親父と同じ ステージで』・・・って辺りが、あいつの今の心境ですかねえ?」(こっちの方がよほど素直じゃないよーな☆)
「おや、上手いね波多野。結構そっち方面の才能あるんじゃないかい」
「結構アドリブきくんやな。引退してもそっちの道で、食っていけるかも知れんぞ」
「・・・ほめられてる気、しないんスけど。それに、今から引退した時の話はやめてくださいよー。俺は師匠の古池さんくらい長く、現役でいるつもりなんですから」
ちょっとスネて見せた波多野だったが、不意に「あれ?」と驚き顔で目を見開き、先ほど同期が出て行ったばかりの出入り口を見つめる。
そこには、ちょっと前に彼らの間で話題になっていた、このG1優勝候補NO1選手が佇んでいたのだから。
「・・・犬飼さん!?」
「お前ら、何かあったんか? さっき洞口とすれ違ったが、ヤケに機嫌良さそうに見えたぞ?」
「え、ええ、まあ・・・って、機嫌が良かったあ? あいつが??」
「犬飼さん、相変わらず絶好調みたいですね」
「当たり前や。地元開催のG1で、よそ者にデカい面されて、たまるかい」
───そう。
今回、榎木や蒲生を差し置いて優勝候補に挙がっているのは、この競艇所をホームプールに持つ彼、『北陸の狼』こと犬飼軍司なのだ。
なのに、蒲生の川柳作りについつられ。先ほど行われていたはずの犬飼のレースをつい見損ねて───どころかすっかりド忘れてして☆───いたため、いつの間に戻って来た彼の姿に、波多野は仰天してしまったのである。
彼らに律儀に付き合っていた榎木も、波多野同様に犬飼のレースの結果を知らない。が、馬鹿正直に「見てなかった」と言うのはあまりに失礼。それで当たり障りのない言葉で相手の様子を伺う辺りは、さすがに年の功だろう。
しかし。
「おー犬飼さん、レースどないでした? ま、負けるハズはないと思うけんど、うっかり見るの忘れとって」
能天気な声が、榎木のささやかな努力をあっさり無と化す瞬間を、目の当たりにした気がする波多野であった。
───犬飼の眉間にピシッ! とシワが寄ったように思うのは、決して目の錯覚ではあるまい。
「・・・ほお、さすが天才は余裕だな。人のレースは気にならん、と来たか」
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01月19日(金)
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