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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■毛利小五郎という人物(2) 名探偵■ナン
そう言えば、ここは年上なのを敬うためにも『おじさん』呼びした方が良かったのかも。けど、当の毛利氏は、私の『あなた』呼ばわりを大して咎めなかった。
「どーせあの生意気なガキは、俺の娘にホレてるんだろうが。見てりゃ分かるぜ。
で、新一のバカとも、こっそり連絡を取り合ってる。となれば、新一が帰って来るってことも事前に知らされていた、って考えた方が自然だろうがよ」
「・・・・・・」
最初の恋愛談はともかく、『江戸川コナン=工藤新一』が幸運にも露呈していないことには、心底安堵した。ついでに、その他の推理は全部的外れなことに、つい苦笑する。
だから、なのだろう。毛利氏のそのトンデモ推理が、私にとんでもない動揺をもたらすことになるなんて、考えも見なかったのは。
「だから、だな。
その、嬢ちゃんにはちょっと酷、ええと、残酷な話になるんだけどよ。
ひょっとしてコナンの奴が、失恋確定だ、今は蘭のそばにはいたくねえ! かと言って、家出して蘭を困らせるのはガキのやることだ、なんつーてカッコつけた挙句、嬢ちゃんに自分の代わりをさせることにしたんじゃねえか、と思ったんだ。違うか?」
「彼がカッコつけなのは否定しないけど。それで、どう私にとって残酷な話なの?」
毛利氏が私を見る目に哀れみが含まれるのを感じ、首を傾げてしまう。
どうして彼は、私をこうも不憫がっているんだろう? と。
『強制されたんじゃないか』と言ってはいたが、毛利の考えが本気で分からない。どんな理由で強制された、と思っているのだろう。
すると毛利氏は、うー、とか、あー、とか、さんざん言いあぐねた末に、ボソッと言うのだった。
「だってよ・・・嬢ちゃん、あのクソガキのこと、好きなんだろう?」
「っっ!?!?!?」
「なのにあいつはそのことに気づかずに、失恋した自分を可哀想がるばっかでよ。挙句、惚れてる奴に自分の代わりをさせるなんざ、鈍感なのにもほどがあるってんだ・・・」
はあ、とため息混じりに呟いた毛利氏の指摘に、私はそれこそ体中の血液が、一気に顔へと上がるのを自覚したのだった。
───さすが既婚者。さすがは一人娘を育て上げた父親。
脳味噌お花畑のあのドンカン名探偵に、爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだわ。
混乱のあまり、私は心で毛利氏を賞賛したが、それはともかく、今は誤解を解くことこそが肝心だ。気づかれたことの一部は、そのままの方が都合がいいと、打算の上で。
「ええと、あの、その、おじさん、その、私が江戸川くんのことを、あの、好き、なのは、その、違わないとは思うわ。で、でも、別に強制されたわけじゃないの。そこは勘違いしないで」
「・・・そうなのか? 無理してねえか?」
「してないから! 私が勝手に、その・・・そう、おじさんが言った通り、あんまりにも落ち込んでいたから、江戸川君が落ち着くまで代わりに蘭さんのことを見ていてあげようか、って言ったの!」
色んな意味で顔が真っ赤になった私は、辻褄が合うようにするだけで精一杯。
そう。理由こそ違えどあくまでも、すり代わりを持ちかけたのは、私の方。そこは訂正しておかないと、後日工藤君が戻って来た時、毛利氏からの風当たりが強くなっても気の毒だ。
すると、毛利氏は私の主張を、変な方角へ曲解したのである。
「嬢ちゃん、お前さん、まだ小学生なのに、なかなかいい女だなあ。だが安心しな!お前さんならきっとそのうち、もっといい男が見つかるぜ。あんな鈍感男じゃない奴がな! 俺が保証する!」
「・・・・・・」
とんでもなくあらぬ方向へ大暴投した推測に、眩暈がしそうだ。いや、「いい女だ」と言われたことは、ちょっとだけ嬉しいけど。そう、ちょっとだけ。
だが、この際だ。せいぜい、その誤解を盛大に利用させてもらうことにする。その方が後々、齟齬を生まなくてすむだろう。
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06月13日(金)
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