ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■残暑お見舞い申し上げます【モン■ーターン】
新人時代から変わることなく、時節の便りが届くたびに、蒲生はそう苦笑せずにはいられなかった。
そして今年。
暑中見舞いの頃は忙しかったのだろう、榎木は珍しく残暑見舞いの方を送って来た。薄い色彩の西瓜の絵を背景にサラサラと達筆で、時節の挨拶が書かれている。
蒲生はその内容に、ひとりごちた。
「言いよるやないか、榎木のヤツも・・・」
残暑お見舞い申し上げます
オーシャンではお互い 残念でしたね
MB記念でリベンジ出来るのを 楽しみにしています
榎木祐介
MB記念の選定基準は、他のSGとは若干違う。前年のSG優勝者はともかく、開催場以外の23場からの推薦選手、開催施行者の希望と言うことであり。
要は成績が良く、且つSGやG1にも素直に斡旋される選手が選ばれる、と言っても過言ではない。
事実、オーシャンでSGに復帰した年、蒲生は残念ながら選ばれなかった。おそらくは、G1やSGを斡旋されているにもかかわらず、断り続けた経緯からだろう。
───MB記念でリベンジ出来るのを 楽しみにしています・・・。
数年前ならさしもの榎木も遠慮して、こんな文面は送って来なかったはずだ。つまり彼はもう、蒲生のSG連戦を疑ってなどいないに違いない。
そして蒲生としても、今更SG斡旋を辞退する気は、さらさらないわけで。
「んーーーーー」
しばらく葉書を凝視していた蒲生が、階下で電話をするために立ち上がったのは、それから約1分後のことだった。
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「まさか、本当に訪ねて来られるなんて・・・」
それから更に、数時間後。
蒲生は冷房完備の下関・榎木邸の客間でくつろいでいた。
何と蒲生は、この残暑厳しい中、じかに榎木の自宅へと足を運んだのである。
主の榎木祐介は、と言えば、自分と客用にアイスコーヒーを自ら作りながら、少々呆れ顔だ。
「いくらワシかて、事前に電話しときながら訪問スッぽ抜かすような真似、しやせんぞ。それとも・・・ひょっとしてお前、らぶらぶデートの先約あったとか?」
「らぶらぶって・・・☆ そう言う気遣いは無用だって、さっきも電話で言ったじゃないですか」
そう言うと榎木はおもむろに、客間のテレビのスイッチを、リモコンでつけた。
ちょうどニュースの時刻らしく、今日の山口近辺の残暑がいかにキツいかを、涼しげな服装のキャスターが述べていて。
「あーー、熱中症警報?? そんなもん、発令しとったんかいな」
「暑くて湿気が多いって話ですから。そうでなくても蒲生さん、こっちに来るとしてもいつものあの車で、でしょう? 冷房ついてないんじゃ、むしろ日射病になるかもしれないじゃありませんか。
・・・アイスコーヒー、もう1杯どうです?」
「おお、もらうわ。五臓六腑に染み渡るのーv」
「とにかく。無事に着いて何よりですよ。蒲生さんにもしものことがあったら、ファンに恨まれること必至ですし」
榎木の心配ももっともだが、蒲生とてまるっきり何も考えずに訪問を決意したわけではない。
「その辺はワシも抜かりないぞー。帽子被ってきたし、西瓜入れて来たアイスボックスにちゃーんと、水分補給用の飲み物詰めてきたけんの。道中であらかた、飲んでしもうたが。
・・・そう言えばさっき渡した西瓜、冷蔵庫に入ったか?」
「残念ながら収まりませんでしたから、風呂場に水張って冷やしてあります。あそこまで見事に丸のままの西瓜も久しぶりで、切るのも何だかもったいでしょ?」
「そないかー。お前くれた葉書見とったら、この暑い中訪ねて行くンならやっぱ、西瓜手土産にせんとなー、思うての。カロリーもあんまり気にせんでええし」
どうせなら古式ゆかしく?、西瓜用のアミに入れて、ぶら下げた状態で持参したかったのだが、この暑さでは適うまい。
蒲生のつぶやきに、榎木は困ったような苦笑を浮かべた。
「俺としてはそういうつもりで、西瓜の絵柄を選んだわけじゃなかったんですがね。
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01月11日(木)
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