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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■春の香は碧 【鳴門】 前編
思わずあきれていたカカシだったが、ふと第三者『たち』の視線がこちらに集まっていることに、そっと周囲を見やる。
先刻から気づいてはいたが放置していたのは、特に害がないものだと分かりきっていたから。だが改めて観察すると、店内の客が皆、フキノトウの香りを楽しんでいるのが分かり、目を瞬かせた。
そして、食事をしようと新たに店へ入って来た客も、店内に満ち溢れている春の香りで一瞬、戸口で足を止めるのも伺えた。
忍も一般人も、店にいる客は皆、どこか無防備な表情を浮かべている。それも、ひどく嬉しそうに。
それは決して、カカシにとっても悪い気分ではなかった。
「何も、春の香りは桜、ばっかりじゃないんだねえ・・・」
「当たり前だ」
どうやら後は焼けるのを待つだけ、になったと見えて、ガイがカカシの傍らに戻って来た。
「どちらかと言えば空を見上げるより、地べたばかり睨みつけていた方だからな、俺は。フキノトウやら蓬の方が、樹の上の花よりも、春の香りという意味では馴染みがあるぞ」
「それも修行場での話?」
「おう、修行場で良く見かけたな。だが、桜餅もあれはあれで好きだぞ。うまいし」
「・・・奢らないからね、俺」
「ケチ」
思えば、カカシに勝負を挑んでは負け、修行中にも失敗や挫折を繰り返してきた男だ。地に伏し、悔しさで涙を流している時、同じ目線に生えていた草木に、親近感を抱いていたのかもしれない。
自分もこいつら同様、踏まれても吹きさらされても、枯れたりはしてないぞ、と。
───それにしたって。
「カレーなら分かるんだけどね・・・」
「ん? 何がだ?」
「イヤ、お前がカレー好きで、カレーを得意料理にしてるのは知ってるよ。けど、フキノトウ味噌、なんて季節を感じられるものにも心得がある、ってのはちょっと意外だなあって」
「失礼な。俺は風情を愛する男だ。さっきも言ったはずだぞ?
それに、これは父さん直伝なんだ。この季節になるとよく、酒のつまみに作っていたからな。以前任務で農家の手伝いをした時に、ついでに教わったと言ってたような・・・今じゃ、俺の好物だ」
「・・・ホント、仲がよかったんだね、ガイたち親子って」
知らず知らず、口調が僻みがちなカカシである。
が、人の感情にも案外敏感なガイは、不思議そうに眉をしかめた。
「何を言ってるんだ、カカシ。お前もサクモさんと仲がよかっただろう。
さっきの・・・ええと、蓬が何とか、なんて話、サクモさんの趣味関係だったんじゃないのか? そもそも、忍に不必要なものには興味を示さんお前だ。でなきゃ、諳んじられるはずもないだろうが、そんなもん」
「・・・・・・・!」
思いもよらぬことを言われて、カカシはとっさに返事が出来なかった。
確かに、サクモがまだ生きていた頃、他の国の文学について色々と教わった覚えがある。
繊細な父は情緒豊かで、忍の心得以外にも、いろんなことを知っていた。文学もその一つで、きっと彼はそれで不遇な立場を慰めていたのだろう。
しかもカカシ自身が、無意識のうちに諳んじることが出来るぐらいに。
ガイから言われるまでその事実に気づけなかった一方で、ガイの方は気づいていたと言うことに、カカシは若干ショックを受けていた。
とは言え、それを素直に表現できるような年齢を、彼はとっくに通り越している。
「・・・そんなことな〜いよお。イチャイチャパラダイス大好きだし〜」
「サクモさんが草葉の陰で泣いてるぞ・・・っと、来た来た」
「お待たせえ〜v サービスのビール2人前と、フキノトウの焼き味噌よおんvv」
「ふーん、結構いい香りだねえ。
ンじゃ、ガイの尊い労働力に、敬意を表して」
「お互いこの季節を無事に迎えることが出来た、幸運に」
カツン、とジョッキを軽く合わせてから、カカシもガイも自分の杯を同時に空けた。
一仕事終えた後のビールがうまい、と喜んでいるガイを尻目に、早速フキノトウの焼き味噌にカカシは箸をつける。
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04月15日(水)
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